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判断は、正しさではない。ただ、引き受け続けることだ。  作者: 科上悠羽


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第17章 言い切る

「……どうしますか」


その問いは、以前と同じ形で投げられた。

でも、意味はまるで違っていた。


条件は、厳しかった。

数字だけ見れば、どちらも取れる。

けれど、両立はできない。


会議室の空気が、わずかに張る。

急かす人はいない。

でも、待たれている。


私は、資料を閉じた。


刻印盤を見る必要はなかった。

条件は、頭に入っている。

前例も、把握している。


それでも。


「……少し、時間をください」


そう言った自分の声は、落ち着いていた。


誰も反論しない。

誰も、不満を漏らさない。


私は、深く息を吸う。

怖さは、ある。

消えてはいない。


でも、逃げ道を探す感覚はなかった。


「こちらを優先します」


顔を上げて、はっきりと言う。


一瞬の静寂。

それから、誰かが頷く。


「理由は」


求められた。

でも、以前のような説明は、もう必要なかった。


「条件が、そうだからです」


それだけ。


数字でも、前例でもない。

条件をどう読むか、その読み方自体が判断だと、

もう全員が理解している。


「……承知しました」


その言葉で、場は動いた。


会議が終わり、人が散る。

私は、席を立たずに、少しだけその場に残った。


胸の奥が、静かだった。

高鳴りも、震えもない。


ただ、確かな重さがある。


「……言い切りましたね」


フィオが、そっと言う。


「うん」


私は、短く答えた。


「怖くなかったですか」


同じ問い。

でも、もう答えは決まっている。


「怖かったよ」


「でも」


私は、フィオを見る。


「迷わなかった」


フィオは、その言葉を噛みしめるように、ゆっくり頷いた。


刻印盤の前を通る。

今日も、何も映っていない。


でも、もう分かっている。


盤が示すのは、条件だけ。

選ぶのは、人だ。


――判断は、人がする。


その前提を、

私は初めて、言葉ではなく行動で示した。


そしてそれを、

誰も否定しなかった。

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