第15章 それでも、席に座る
その後、誰も席を勧めなくなった。
正確には、勧める必要がなくなった。
私が座ることが、もう前提になっている。
会議室に入ると、自然に視線が集まる。
確認でも期待でもない。
ただ、「そこにあるべきもの」を見るような目。
私は、席に着く。
迷わなかった。
失敗があった。
小さくても、確かに。
それでも、席は空かなかった。
代わりも、用意されなかった。
「今回の案件ですが」
誰かが話を始める。
条件は、前より慎重に整理されている。
失敗が、ちゃんと反映されていた。
私は、それを見て、少しだけ息を整えた。
「……確認します」
声は、震えていない。
自信があるからじゃない。
逃げないと、決めているからだ。
「前回の反省点を踏まえるなら」
私は続ける。
「判断を急がないこと」
「確認を、飛ばさないこと」
誰かが、頷く。
「それと」
一拍。
「結果がどうであれ、私の判断として残す」
沈黙。
でも、拒絶はなかった。
「承知しました」
その一言で、話は進む。
判断は下された。
結果は、問題なかった。
でも、それ以上に大事なのは、
何もなかったからではなく、逃げなかったことだと、私は分かっていた。
会議の後、席を立つ。
フィオが、少し後ろからついてくる。
「……座り続けるんですね」
「うん」
私は、短く答える。
「降りないんですか」
その問いは、試すものじゃなかった。
心配でも、期待でもない。
「降りたら」
私は、歩きながら言った。
「また、楽になる」
フィオは、何も言わなかった。
「考えなくてよくなる」
私は続ける。
「それだけは、嫌だった」
廊下の先で、刻印盤が見える。
今日も、何も映していない。
でも、もう気にならない。
盤がどうか、じゃない。
「席に座るって」
私は、立ち止まる。
「特別になることじゃないんだね」
フィオが、首を傾げる。
「……どういう意味ですか」
「逃げないって、決め続けること」
私は、少しだけ笑った。
「ただ、それだけ」
席に座る。
判断する。
結果を受け取る。
それを、繰り返す。
――それでも、席に座る。
それが、今の私の選択だった。




