第14章 失敗は、起きる
結果は、致命的ではなかった。
数値上の誤差。
想定より遅れた処置。
回復までに、少し時間がかかった。
「大事には至っていません」
そう報告されて、場は一応、落ち着いた。
誰も声を荒げない。
誰も責めない。
それでも。
「……判断は、適切でしたか」
その問いは、静かに投げられた。
確認という形をしているが、意味は違う。
私は、すぐには答えなかった。
「結果だけ見れば」
誰かが言う。
「許容範囲です」
別の誰かが、頷く。
「前例と比べても、大きな乖離はありません」
“前例”
その言葉が出た瞬間、私は顔を上げた。
「前例には、なります」
静かに、そう言った。
視線が集まる。
「でも」
私は続ける。
「今回は、私の判断です」
場が、少しだけ緊張する。
「前例として使うなら」
言葉を選ぶ。
「成功例としてじゃなく、失敗を含めて残してください」
一瞬、沈黙。
「失敗、というほどでは」
そう言いかけた声を、私は遮らなかった。
「致命的じゃないのは、運が良かっただけです」
自分でも驚くほど、落ち着いた声だった。
「条件の読み替えで、急ぎすぎた」
「確認を、一段飛ばした」
私は、淡々と事実を並べる。
誰も、否定しなかった。
「……承知しました」
そう言われ、記録が修正される。
成功でも、破綻でもない。
でも、判断の揺れは、確かにあった。
会議が終わり、人が散る。
フィオが、少し遅れてついてくる。
「……怖くなかったですか」
さっきと同じ問い。
でも、重さが違う。
「なったよ」
私は、正直に答えた。
「失敗って言葉、口に出すの」
「でも」
フィオは、続ける。
「逃げませんでした」
私は、少しだけ笑う。
「逃げたら、前例になるから」
フィオは、その意味を理解するのに少し時間がかかった。
それから、静かに頷く。
刻印盤の前を通る。
今日も、何も映らない。
失敗は、刻めない。
でも、隠すことはできる。
――だから、残す。
その選択をしたのは、
紛れもなく、私だった。




