第13章 引き受ける、ということ
「責任は、どこに置きますか」
その問いは、以前ならもっと重かった。
今は、会議の流れの中で自然に出てくる。
私は、すぐには答えなかった。
考えている、というより、確かめている。
「判断は、私です」
そう言うと、誰も驚かなかった。
その事実が、もう共有されているからだ。
「では」
誰かが続ける。
「結果については」
私は、言葉を継いだ。
「結果も、私が受け取ります」
静かな声だった。
でも、その場には十分だった。
誰も、それ以上を求めない。
理由も、条件も、もう出ている。
会議は、それで終わった。
廊下に出たところで、フィオが歩調を合わせる。
「……言い切りましたね」
「うん」
私は、短く答える。
「怖くなかったですか」
少し間があってからの問いだった。
「怖いよ」
即答だった。
フィオは、少し驚いた顔をする。
「でも」
私は続ける。
「怖いままでも、引き受けるって決めた」
「どうして?」
フィオの声は、責める調子じゃない。
ただ、知りたいだけだ。
私は、少し考えた。
「考えなくてよくなる方に、行きたくなかった」
その言葉を口にした瞬間、
第Ⅱ部で感じた違和感が、一本の線になる。
「前例に乗るのも」
「名前に任せるのも」
「全部、楽だから」
私は、立ち止まる。
「でも、それをやると」
言葉を探す。
「私じゃなくなる気がした」
フィオは、何も言わなかった。
ただ、聞いている。
「引き受けるってさ」
私は、少しだけ笑った。
「正しいって証明することじゃないんだね」
「……はい」
フィオは、小さく頷く。
「逃げないって、決めること」
私は前を向く。
「それだけ」
刻印盤の前を通る。
今日も、光らない。
でも、その存在が、前ほど大きく感じられなくなっていた。
判断は、刻めない。
責任も、刻めない。
――だから、人が引き受ける。
それを、私はようやく、言葉として理解し始めていた。




