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判断は、正しさではない。ただ、引き受け続けることだ。  作者: 科上悠羽


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第11章 座っている人

最初に変わったのは、席だった。


「こちらへどうぞ」


そう言われて案内された場所は、

今までより少しだけ前だった。


机の配置も、視線の集まり方も、ほんのわずかな違い。

でも、その差は思った以上に分かりやすい。


「……私?」


確認するように聞くと、相手は頷いた。


「判断の共有が必要なので」


その言い方に、違和感はなかった。

もう、“判断”という言葉が、特別じゃなくなっている。


私は席に着く。

自然な流れだった。

誰も、驚かない。


周囲を見渡すと、知っている顔ばかりだ。

前から一緒に現場に立ってきた人たち。

前例を作り、記録を揃え、判断を回してきた人たち。


その中央に、自分がいる。


「今回の件ですが」


誰かが話を始める。


条件。

想定。

対応案。


話は、滞りなく進む。

私は聞いている。

今までも、そうしてきた。


「……リーナさん」


名前を呼ばれて、顔を上げる。


「どう思いますか」


その瞬間、空気が一段、静まった。


胸が、少しだけ早くなる。

でも、逃げるほどじゃない。

幕間で吸った空気が、まだ残っている。


「条件は、満たしています」


私は、落ち着いた声で言った。


「前例もあります」


頷きが返ってくる。


「ただ」


一拍。


「今回は、同じ判断をする理由を、言葉にした方がいい」


誰かが、ペンを止める。


「前例を使うなら」


私は続ける。


「“同じだから”じゃなくて、“どこが同じか”を確認したい」


沈黙。


でも、拒絶はなかった。


「……では」


誰かが言う。


「そこから整理しましょう」


話は、少しだけ長くなった。

でも、誰も不満を言わない。


判断は、最終的にまとまった。

結果も、妥当だ。


「ありがとうございます」


会議が終わり、そう言われる。


その言葉は、以前より少しだけ重かった。


席を立つと、フィオが近づいてくる。


「……すごかったです」


小さな声。


「何が?」


「判断を、急がなかったところ」


私は、少し考えてから答える。


「急がないって、決めただけ」


フィオは、目を丸くした。


「それも、判断ですね」


「そう」


私は、苦笑する。


「逃げないための」


その言葉を口にした瞬間、

自分がもう“外側”にいないことを、はっきりと自覚した。


座っている人は、立っている人より動かない。

でも、その分、目立つ。


私は、その席に、まだ慣れていなかった。

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