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判断は、正しさではない。ただ、引き受け続けることだ。  作者: 科上悠羽


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11/21

幕間 少しだけ、外へ

「……今日、早く終わりません?」


言い出したのは、私だった。


フィオが一瞬、目を瞬かせる。


「え?」


「たまには」


肩をすくめる。


「盤も書類も見ない日、あっていいでしょ」


返事を待たずに、私は歩き出した。

止められる気はしなかった。

理由を説明するつもりも、なかった。


外の空気は、思ったより軽かった。

建物を出ただけなのに、胸の奥が少しだけ広がる。


「どこに行くんですか」


フィオが、半歩遅れてついてくる。


「決めてない」


正直に言う。


「考えない日だから」


フィオは、少し困ったように笑った。


「……それ、判断放棄じゃないですか」


「違う」


私は首を振る。


「今日は、判断しないって決めたの」


それを聞いて、フィオは黙った。

でも、離れなかった。


街は、いつも通りだった。

刻印盤の前とは違う、人の流れ。

急いでいる人も、立ち止まっている人もいる。


「ねえ」


歩きながら、私は言った。


「疲れた、って言ってたよね」


フィオは、一瞬だけ視線を逸らす。


「……はい」


「理由、分かる?」


少し間があってから、答えが返ってくる。


「分からないまま、動いてるからです」


私は、足を止めた。


「分からない?」


「はい」


フィオは、真面目な顔で続ける。


「判断は、早くなりました。でも」


言葉を探す。


「自分が、何を基準に動いてるのか……」


「見えなくなってきた?」


フィオは、小さく頷いた。


「……はい」


それを聞いて、私は少しだけ笑った。


「それ、正常だよ」


「え?」


「考えてる証拠」


私は前を向く。


「考えなくてよくなる方が、楽だけど」


一拍。


「それ、危ない」


フィオは、何も言わなかった。

でも、その背中は、さっきより少しだけ軽そうだった。


しばらく、二人で歩く。

目的はない。

でも、止まらない。


「リーナさん」


フィオが、ぽつりと呼ぶ。


「はい」


「……ありがとうございます」


「何が?」


「……連れ出してくれて」


私は、少しだけ考えてから答えた。


「私も、出たかっただけ」


それ以上は、言わなかった。


空は、思ったより高い。

刻印盤の光は、どこにもない。


――判断しない時間が、

ちゃんと息になることを、私はその時、初めて知った。

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