「断」―《決断を刻む王路》
◆「断」ルート
―― 決断を刻む王路
大樹の中心に芽吹いた灰の紋は、静かに揺れていた。
光と影の循環は保たれている。それでも、世界は常に均衡を拒む。力は偏り、欲望は溢れ、時間は状況を変え続ける。調停は永遠ではない。必ず、両立できぬ瞬間が訪れる。
最初の歪みは、小さな争いとして現れた。
光の領域に属する都市が、影の節に繋がる村への供給路を閉ざしたのだ。表向きの理由は「安全保障」。だが実際には、影の民が持つ特異な術式を恐れ、排除しようとする動きだった。
大樹の律動が乱れる。
光は正しさを盾にし、影は沈黙の中で怨嗟を溜め込む。
調停の王であれば、双方を説き、時間をかけ、歩み寄りを促しただろう。
だが、エルドは違った。
彼は都市の門に立ち、光の評議会に告げた。
「供給路を開け。
拒むなら、その“正しさ”を王家が断つ」
評議会は反発した。
光は秩序であり、影は不安定だと。
排除は合理であり、防衛だと。
エルドは一度だけ、大樹の紋を顕した。
灰の紋は光を否定せず、影を庇いもしない。
ただ、“均衡を壊す意志”そのものを切り分ける。
その瞬間、都市を守っていた光の結界が、王の意志に応じて一部のみ解かれた。
門は開いた。
だが同時に、評議会の権限は王家によって剥奪された。
救われたのは影の村。
失われたのは、光の都市が持っていた“自治という誇り”だった。
王は勝者ではない。
ただ、選んだだけだ。
この裁定は、世界に波紋を広げた。
影の民は、初めて王家を信じた。
光の貴族たちは、初めて王を恐れた。
以降、エルドの名には二つの呼び名が並ぶ。
「調停者」
そして――
「切断の王」。
彼は、常に両方を抱えた。
戦争を避けるために、誰かの未来を断つ。
世界を守るために、ある正しさを終わらせる。
そのたびに、大樹の灰の紋は微かに濃くなる。
均衡は保たれる。
だが、完全ではない。
夜ごと、エルドは独りで中心に立つ。
光と影が巡る音を聞きながら、問い続ける。
――あの選択は、調停だったのか。
――それとも、ただの断絶だったのか。
答えは返らない。
大樹は沈黙を保ち、世界は前に進み続ける。
それでも、彼は歩みを止めない。
調停者であるがゆえに、
誰よりも多くを失いながら、
それでも“選び続ける”王として。
◆「裁」ルート ―― 王に抗う秩序
王の裁定が正しければ正しいほど、人々はそれを恐れ始める。光の貴族たちは密かに同盟を結び、「王に抗うことこそ秩序」と掲げて蜂起する。エルドは、暴君ではないにもかかわらず、暴君として語られる存在となる。正しさが拒まれる世界で、王は「力を振るわぬために、再び断つ」選択を迫られる。
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◆「芽」ルート ―― 次代への影
エルドの裁定を見て育った若き王候補が現れる。その者は「断つ王」の姿だけを学び、調停の苦悩を知らない。迷いなく切り捨てるその姿に、民はかつてのエルドを重ねる。王は悟る――自分の在り方が、歪んだ形で未来に刻まれていると。彼は初めて、「自分の死後」を守る決断を迫られる。




