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エルド奇譚:迷宮の祠と真名の石  作者: VIKASH
第七の試練

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「歪」―《再編の継承 ― 多枝なる王路》

◆分岐「歪」《再編の継承 ― 多枝なる王路》




 核の再編が定着したのち、世界には“即時には記録されない王”が生まれ始めた。



 ――名は、ダルタン。



 夜の境界に近い層で、彼は静止していた。

 漆黒の鎧は光を反射せず、周囲の色を吸い取るように沈んでいる。所々に刻まれた紅の紋章だけが、わずかに存在を主張していた。肩と膝に描かれた赤いハートの印は、意匠としてはあまりに不釣り合いで、それゆえに記号として強く目に残る。



 兜は鼻より上を覆い、視線の方向を悟らせない。

 口元には、顎の輪郭に沿って整えられた髭が生え、鎧の無機質さに対して、奇妙な人間性を付与していた。



 彼は言葉を発しない。

 槍を携え、ただそこに在る。



 骨の馬――ピクスが、足下で低く軋んだ。

 白く剥き出しの骨格の奥、眼窩には青白い炎が揺らめいている。気性は荒く、核の再編以降、世界の不確定性に強く反応するようになっていた。



 エルドの気配を察した瞬間、ピクスは前肢を跳ね上げ、襲いかかろうとした。



 ――だが、動きは途中で止まる。



 ダルタンが、手綱に触れたからだ。



 力は感じられない。ただ、制止されたという事実だけが、確定する。ピクスは歯を鳴らし、青炎を荒立てながらも、その場に留まった。



 沈黙が続く。



 エルドは理解する。この存在は、敵でも味方でもない。

 正統でも、異端でもない。



 ダルタンは《歪んだ継承の結果として“成立してしまった王”》だった。



 核が単一の正しさを放棄した瞬間、複数の判断基準が並立した。そのうちの一つが、彼を王として成立させた。だが、その成立は宣言されていない。王名録にも刻まれていない。民に知られることもない。



 それでも、王であるという事実だけは、否定できない。



 紅のハートの紋章は、かつて封存された系譜に属する記号だった。

 愛情や慈悲を示すものではない。「切り捨てられた情動」を意味する印だ。判断の最適化の過程で不要とされた感情、それを引き受けるための系譜。



 ダルタンは、その系譜が再評価された結果、現れた。



 彼が沈黙するのは、言葉が不要だからではない。

 多正統の時代において、言葉は即座に立場を固定してしまう。沈黙だけが、並立を許す。



 槍は振るわれない。

 だが、それは戦わないという意味ではない。



 この王は、選択が衝突したときにのみ、動く。

 正しさが重なり合い、どちらも排除できなくなった瞬間、その均衡を“刺し貫く”役割を担う。



 エルドは気づく。

 この王路では、王は統治者ではない。



《王とは、世界が迷ったときにだけ現れる機構である》



 ピクスの青炎が、わずかに静まる。

 ダルタンは視線を向けないまま、馬首を巡らせた。



 去り際、紅の紋章が一度だけ、核の光を反射する。



 それは警告ではない。

 約束でもない。



 ただ、多枝なる王路において、

《沈黙する王もまた、正統の一つである》という事実が、確定しただけだった。




---




◆「呟」ルート


沈黙を保ってきた王ダルタンは、エルドの問いに対し、ただ一言だけ言葉を発する。その発話を契機に、核は並立する可能性の一部を失効させ、選択肢の数が減少する。王は再び沈黙へ戻るが、世界は知ることになる。沈黙とは不能ではなく、語らぬという意思であることを。この分岐は、多正統の構造に初めて「制限」が加えられる転換点となる。



---



◆「停」ルート


正統同士の衝突が拡大し、世界が破綻へ向かっても、ダルタンは介入しない。選択が制度として成立している以上、王はそれを止めないという判断を下す。結果、被害は拡大し、破滅は回避されない。王が動かなかったという事実は、後世に重く残り、「王とは何を守る存在なのか」という問いを世界に突きつける。



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◆「槍」ルート


複数の正統が同時に世界存続を脅かした瞬間、ダルタンは初めて槍を振るう。標的となったのは特定の人物ではなく、一つの「選択肢」そのものだった。消失した可能性は二度と復元されず、多正統の構造には不可逆の欠損が生じる。この分岐は、沈黙の王が均衡を破断した唯一の事例として記録される。



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◆「喪」ルート


封存されていた情動を示す紅のハートの紋章が活性化し、ダルタンの判断基準が変質する。効率や最適解ではなく、痛みや喪失を引き受ける選択が優先されるようになる。沈黙は維持されたまま、王は単なる均衡装置から、責任を背負う存在へと再定義される。この分岐は、王という概念そのものを更新する終着点となる。



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