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エルド奇譚:迷宮の祠と真名の石  作者: VIKASH
第六の試練

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「月」―《炎の心臓》

◆「月」ルート《炎の心臓》


――循環の受肉



 籠の中心で、焔は静かに沈黙していた。

 燃えているはずのそれは揺らぎを失い、光でも影でもない中間の相を保っている。夜空に浮かぶ月のように、熱を持たず、ただ在り続ける存在だった。



 夢界の欠片が近づくにつれ、焔は形を変える。拡散するのではなく、内側へと折り畳まれ、鼓動のリズムを刻み始めた。音はない。それでも、空間全体がその脈に同調し、時間の進み方がわずかに歪む。



 それは臓器ではなかった。

 生命を支える部品ではなく、「終わらない変化」という概念が凝縮された核だった。



 触れた瞬間、身体の感覚が薄れる。痛みも疲労も消えるが、安堵は訪れない。代わりに、皮膚の内側から静かな更新が始まる。古い細胞が意味を失い、新しい在り方へと書き換えられていく。



 老いは止まる。

 傷は塞がる。

 だが、同じ状態に留まることだけが許されない。



 感情は摩耗する前に変質し、記憶は重なりすぎる前に意味を失う。愛着も憎しみも、一定の周期で別の色へ移ろう。昨日と同じ理由で立ち止まることは、もはやできない。



 不死とは保存ではなかった。

 それは、終わりを持たない代わりに、常に別の存在へ移行し続ける呪いだった。



 籠の焔が淡く満ち、円環が静かに回転を再開する。

 炎の心臓は胸の奥で確かな鼓動を刻み始めるが、それは「生きている証」ではない。「変わり続けることを拒めない証」だった。



 月は満ち、欠け、再び満ちる。

 同じ形に見えて、同じではない。



 この先で出会う世界は、かつて知っていたものと似ていても、決して同一ではないだろう。

 そして、自身もまた――その例外ではなかった。



 不死とは、終わらない生ではない。

 終われない変化そのものだった。



---



◆《満月》ルート ― 変化を受け入れる者


 炎の心臓の鼓動は安定し、更新は穏やかな周期へと移行する。姿も思考も大きくは変わらないが、同じ判断を二度と繰り返せない存在となる。世界は彼を「変わらぬ者」と誤解し、歴史の傍観者として扱い始める。だがその立場こそが、最後に世界の結末を見届ける役目を与えられる前触れだった。



---



◆《欠月》ルート ― 留まろうとする者


 変化を拒んだ結果、炎の心臓は歪な鼓動を刻み始める。感情も記憶も失われず、積み重なり続け、判断は次第に過去へ引きずられていく。周囲は進み、自身だけが同じ場所に留まる。その不自然さはやがて世界の綻びとなり、救うべき存在か、排除すべき異物かという問いを突きつけられる。



---



◆《新月》ルート ― 変化を消去する者


 更新のたびに、不要と判断した記憶や感情を自ら燃やす選択を取る。炎の心臓は安定するが、連続した「自己」は失われていく。周囲から見れば同じ人物だが、内側では別の誰かが目を覚ましている。この先に待つのは自由か、完全な空白か。その境界はすでに曖昧だった。



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◆《朔望》ルート ― 他者に委ねる者


 炎の心臓は他者の存在に反応し、出会いと別れによって更新の速度を変える。誰かを守れば停滞し、誰かを失えば変化が進む。自身の在り方は、もはや一人では決められない。これからの選択はすべて関係性に左右され、共に歩いた者の運命が、そのまま結末を形作っていく。



---



◆《月蝕》ルート ― 循環を断つ者


 不死と更新を支える循環そのものを拒絶した瞬間、炎の心臓は静止しかける。老いも再生も起きない、異常な均衡。世界はそれを許さず、修正の力が動き出す。これは力の選択ではなく、世界の理との対峙だった。成功すれば全てを書き換え、失敗すれば存在ごと消える可能性が示される。



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