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エルド奇譚:迷宮の祠と真名の石  作者: VIKASH
第六の試練

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「玉」―《やさしく柔和な道》

◆「玉」ルート《継承されなかった重み》



 真の間の奥、玉座の影に隠れるように伸びる回廊は、意識しなければ見落としてしまうほど細かった。

 足を踏み入れた瞬間、砦の空気がわずかに緩む。張り詰めた緊張ではなく、長く抑え込まれていた呼吸が、ようやく吐き出される感覚。



 床に刻まれた文様は不規則だ。円でも直線でもなく、点が連なり、途切れ、また別の点へとつながっている。

 それは地図ではなかった。

 記録されなかった選択の軌跡。王が決断を下す前後で、語られずに終わった可能性の集積だった。



 一歩進むごとに、微かな気配が増えていく。

 声にはならない思念。

 命令の裏で誰かが引き受けた負担。

 救われたが、名を残されなかった存在。



 やがて回廊は途切れ、空間がひらける。



 玉座も、核も、そこにはなかった。

 代わりに、空間の中央で《光が組み上がる》



 稲妻のような線が宙を走り、古代文明の回路構造が立体的に展開していく。

 それは召喚ではない。

 保存された情報が、環境に応答して再生された像――《実体を持たない王の残響》だった。



 光の輪郭が定まり、一人の人物の姿を結ぶ。



 古代の王 《エルタニエル》



 威圧も誇示もない。

 だが、その佇まいだけで、この砦が誰によって設計されたのかが理解できた。



 エルタニエルは静かに告げる。



『我は、忘れ去られし王である』



 その声には感情がなかった。

 嘆きでも、誇りでもない。

 ただ、役割を終えた存在が、なお残された機能として語っているだけだった。



 エルタニエルは掌を天へと向ける。



 次の瞬間、空間が歪み、四つの「玉」が宙に浮かび上がった。



(いち)」――《赤の弾》


 燃え上がるように揺らめき、空気に蜃気楼を描き出す。

 触れずとも熱が伝わり、火花が散るたび、破壊と情動の記憶が揺さぶられる。



()」――《青の弾》

 泡の弾ける音、遠い川のせせらぎが重なり合い、周囲を冷気が包む。

 流し、鎮め、時間を待つ力がそこにあった。



(さん)」――《黄の弾》

 稲妻回路が収束したかのような古代の核――コア。

 電気が走り、轟音が空間を震わせる。

 統制と文明、秩序のために生まれた力。



()」――《緑の弾》

 植物の根が複雑に絡みつき、一見すると土と同化している。

 だがその奥で、微かに翡翠の輝きが覗く。

 風の音が通り過ぎ、成長と持続の気配だけが残る。



 四つの玉は、序列なく並んでいた。

 優劣も、正誤も示さない。



 エルタニエルは言う。



『唱えよ』



 その言葉に、砦全体が反応する。

 命令ではない。

《確認》だった。



 ――プロタゴラスト。



 その名を口にした瞬間、空間の律動が変わる。



 四つの玉が共鳴し、ゆっくりと、しかし確実に――《エルドの手元へと近づいてくる》



 選べ、と迫るわけではない。

 逃げ場を塞ぐわけでもない。



 ただ、引き受けられるかどうかを、

 世界そのものが見極めようとしていた。



 玉座はない。

 戴冠もない。



 残されているのは、

 力ではなく《持ち続ける責任》だけだった。



---



●《授》ルート ―― 四つを持たない


 エルドは、どの玉にも触れなかった。

 拒んだのではない。ただ、立ち止まった。

 次の瞬間、玉は消え、床の文様が淡く光る。足元へ、無数の点が流れ込み、思考の奥に沈んでいく。

 力は宿らない。だが、選択の重さだけが残る。

 砦は沈黙し、通路が一つ、静かに開いた。



---



●《氛》ルート ―― 一つを選ぶ


 エルドは一つの玉に手を伸ばした。

 触れた瞬間、脈動が胸に刻まれる。残る三つは、離れた場所で静止したままだ。

 力は得た。しかし、空白も同時に生まれる。

 砦の奥で、別の誰かを待つ余地が残された。

 選択は完結していない――それを、エルドは理解していた。



---



●《煢》ルート ―― 名を呼ぶ


 エルドは玉に触れず、その名を順に呼んだ。

 赤、青、黄、緑。

 玉は応え、周囲を巡り始める。だが、身体には何も宿らない。

 代わりに空間が変質し、道と敵と運命が配置を変える。

 力を持たぬまま、結果だけが動き出した。



---



▲《䀠》ルート ―― 王へ戻す


 エルドは玉を掬い上げ、光の王へ差し出した。

 一瞬、エルタニエルの輪郭が濃くなる。

 だが次の瞬間、玉も王も砦へ溶け込んでいった。

 戴冠はない。継承もない。

 ただ、この場所だけが、永遠に閉じられた。



《アナザーエンド》


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