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エルド奇譚:迷宮の祠と真名の石  作者: VIKASH
第六の試練

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「動」―《ラッシュパス》

◆ BF ― 「動」ルート


《動の道 (ラッシュパス)》

――アナザールート


 踏み出した瞬間、迷宮が悲鳴を上げた。


 床が震え、壁が歪み、空間そのものが遅れて追従してくる。走るという行為が、世界に負荷を与えているのがはっきりとわかる。螺旋は静止の中で成立する構造だったはずなのに、速度を与えられた途端、怒りのように軋み始めた。


 一歩、また一歩。踏みしめるたび、背後の景色が崩れ落ち、進路が無理やり生成されていく。通ったはずの道は即座に消失し、振り返る余地すら許されない。動き続けなければ、落ちる。止まれば、世界に置き去りにされる。


 赤い線が、いくつにも分裂した。


 壁、床、天井、あらゆる面に走る不規則な軌跡。それらは導きではなく、誘惑に近い。どの線を選んでも前には進めるが、どれが正しいかは示されない。走ることで選択肢が増え、判断が追いつかなくなる。迷宮は明確に、意図して混乱を拡張していた。


 やがて、異変が起きる。


 視界の端に、遅れて動く影が現れた。光源が存在しないにもかかわらず、形だけを模した黒い残像。走るたびに増殖し、壁に張り付き、床を這い、螺旋の隙間から滲み出てくる。それらは実体を持たないが、確かに干渉してくる。触れた場所から、感覚が削り取られていく。


 走るほどに、追われる。

 速くなるほどに、世界が敵意を持つ。


 影は次第に一つの輪郭を持ち始めた。人型とも怪物とも言い切れない、回転を宿した存在。動きの残骸が集積し、意思を獲得しつつある。螺旋の魔性とも呼ぶべきそれは、行動そのものを糧として成長していた。


 圧が跳ね上がる。

 空間が狭まる。

 逃げ場が消える。


 ここで初めて、走るという選択の危うさが露わになる。動き続ける限り、敵もまた加速する。行為が世界を前に進めると同時に、破滅も呼び寄せていた。


 瞬間、身体が止まった。


 意図した静止ではない。直感に近い反射だった。次の一歩を踏み出さなかった、その刹那、影は行き場を失い、空中で膨張し――弾け飛んだ。黒い破片は螺旋に吸い込まれ、音もなく消滅する。


 赤い線が、一本だけ残る。


 それは先ほどまでの乱雑な軌跡とは異なり、明確な方向性を持っていた。脈動し、鼓動し、まるで呼びかけるように奥へ延びている。走り、迷い、追われ、止まったことで、初めて道が確定した。



「……来い」



 短い言葉が、世界に傷を刻む。


 その瞬間、螺旋が再構築を始めた。回転はより荒々しく、より深く、下方へと潜り込むように変質していく。赤い線の先に、別の階層が口を開けている。そこは祠の管理外。静の理も通用しない、行動と衝突が支配する領域。


 走る意味が、ここで変わる。

 もはや逃走ではない。

 突破のための疾走だ。


 背後で、再び何かが目覚める気配がした。先ほどとは異なる、より大きな存在。螺旋そのものが、次の番人を形成しつつある。影は終わっていない。ただ形を変えただけだ。


 赤い線は、さらに奥へと続いている。

 速度を求める世界の、核心へ向かって。


 この先に待つのは、制御不能の戦いか、断絶を貫く力か。

 それはまだ、選択の外側にある。


 だが一つだけ確かなことがある。


《動いた者にしか辿り着けない領域が、確かに存在している》


 螺旋は加速し、

 アナザールートは、次の段階へ突入しようとしていた。






---



【「重」ルート ― 重力の魔人】



 赤い線の先で、螺旋は垂直へと折れ曲がった。空間が沈み込み、上下の感覚が曖昧になる。次の瞬間、圧が降り注いだ。空気が重く、呼吸さえ遅延する。足元の床は凹み、剣の重さが異常に増していく。進むだけで、全身が引きずられるようだった。



 視界の奥で、空間が歪み、塊が形成される。重力そのものを凝縮したかのような魔人が、螺旋の中心に立っていた。動くたびに周囲が沈み、壁は崩れ、赤い線さえ地面へ引きずり落とされる。近づくほど、身体は低く押さえつけられ、膝が床へ近づいていく。



 それでも、剣だけは手放さなかった。重量が増すほど、刃は確かにそこにあり、支点となる。重圧の中で、進路と距離、そして一撃の意味が静かに測られていく。戦いは、すでに始まりかけていた。



---



【「力」ルート ― 鋼鉄の力士】



 螺旋は突如、円環を描き、闘技場のような空間へ変質した。床は金属質へと固まり、踏み込むたび鈍い音が反響する。空気が震え、重量感のある鼓動が周囲を満たす。その中心で、鋼鉄の肉体を持つ力士が立ちはだかっていた。



 一歩ごとに床が軋み、金属同士が擦れる音が響く。巨体は無駄な動きを排し、構えだけで圧を放つ存在だった。剣を構えた瞬間、空間の密度が変わる。突進が来る前から、衝突の予感だけが全身を貫く。



 距離は短い。退路も限られている。だが、重さと力が支配する場で、剣の鋭さだけが異質な選択肢として残されていた。踏み出すか、迎え撃つか。その一瞬の判断が、螺旋の次を決めようとしている。



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