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エルド奇譚:迷宮の祠と真名の石  作者: VIKASH
第六の試練

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「銀」―《白銀だが曇った道》

◆ 正規ルート ― BE -「銀」



白銀(クロベル)曇影ミラー



 三本の影の道のうち、白く鈍い光を放つ一本だけが、わずかに揺れを抑えていた。

 金の道は過剰に輝き、銅の道は重く息づいている。

 だが銀の道だけが《何も主張しない》


 エルドは一歩を踏み出した。


 足が触れた瞬間、霧が音もなく割れた。

 白銀の床は鏡のようでありながら、はっきりとした像を映さない。

 映るのは輪郭だけだ。

 人の形に似ているが、細部が欠けている。


 進むほどに、視界の端で“何か”が動いた。

 それは過去の光景にも、未来の幻にも見える。

 だが、どれも確証を持たない。

 霧の中で再生される記憶は、必ずどこかが欠けていた。


 声は、もう命令口調ではなかった。



「……それは、見たいものか」



 問いとも独白ともつかぬ響き。

 祠が語っているのか、反射した思考が返ってきているのか、判別できない。


 銀の道は真っ直ぐではない。

 緩やかに歪み、時折、左右に分岐しているように見える。

 だが近づくと、それらは霧に溶け、道は一本に戻る。


《選択肢が存在する“ように見せて”、存在しない》


 それは、祠の試練というよりも――

《世界の構造そのもの》に近かった。


 足元の銀が、わずかに波打つ。

 そこに、言葉にならない像が浮かび上がる。


 守れなかったもの。

 選ばなかった道。

 正しかったかもしれない判断。


 だが、どれにも感情が付随しない。

 悲しみも後悔も、霧に吸われて薄れている。


 ここでは《意味だけが残る》



「――自分を信じろ」



 かつて聞いた声が、今度は歪まずに響いた。

 だが、それは励ましではない。


《責任を引き受けろ》という宣告に近かった。


 銀の道の先に、低い壁のようなものが現れた。

 近づくにつれ、それが“壁”ではないと分かる。

 無数の反射面が重なり合った、薄い層の集合体。

 進む者の姿を、何度も歪めて映す。


 そこには、扉も紋章もない。


 越えるか、立ち止まるか。

 それだけだ。


 祠の気配は、ここで急に遠ざかった。

 導きも、拒絶もない。

 ただ《観測している沈黙》だけが残る。


 エルドが一歩踏み出すと、反射面が同時に震えた。

 像が揺らぎ、重なり、ひとつに収束する。


 次の瞬間、視界が白に満たされた。


 痛みはない。

 喪失感もない。

 代わりに、胸の奥に――《薄い違和感》が残った。


 何かを得たのではない。

 何かを失ったとも言い切れない。


 だが確かに《戻れない位置》へと踏み込んだ。


 白が引いていくと、見知らぬ通路が続いていた。

 材質も、空気も、これまでと異なる。

 祠の気配は、ここにはない。


 代わりに、遠くで微かな律動が響いている。

 鼓動のようで、歯車の回転音にも似ている。


 銀の道は、ここで終わっていた。


 しかし、終着ではない。


 振り返っても、霧も反射面も存在しない。

 選択を示す痕跡は、完全に消えている。


 ただ一つ、胸元に残った曇った感覚だけが、

 次の分岐が存在することを、静かに告げていた。


 この先で問われるのは、

 祠の真実でも、虚構でもない。


 ――選択を選んだという事実を、どう引き受けるか――


 銀は、まだ完全には曇っていない。


 次に光るのか、

 それとも、二度と磨かれないのか。


 それは、この先で決まる。



---



◆「隳」ルート


― 崩す・自ら壊す道


 銀の床に、細かな亀裂が走った。

 踏み出すたび、反射は乱れ、像は砕けていく。

 祠の声は、ここではもう響かない。

 代わりに、選び続けてきた判断そのものが、重さとなって足を引く。

 壊すことでしか進めないと悟った瞬間、道は一段深く沈んだ。

 銀は砕け、真実も虚構も区別を失う。

 残るのは、崩した責任だけだ。



---



◆「鿧」ルート


― 鈍く曇る・濁りを抱えた道


 銀は光を返さない。

 曇りは汚れではなく、沈殿した選択の痕だった。

 進むほどに判断は遅れ、確信は薄れる。

 だが、立ち止まる理由も見当たらない。

 鈍い反射の奥で、過去と未来が溶け合う。

 正しさを測る尺度は失われ、残るのは“続けた”という事実だけ。

 それでも道は、静かに前へ伸びていた。



---



◆「隵」ルート


― 傷・欠けを抱えたまま進む道


 銀の面に、明確な欠損があった。

 避けられない傷として刻まれ、消える気配はない。

 だが、その欠けがあるからこそ、反射は歪み、視界は広がる。

 完全でない像が、複数の可能性を映し出す。

 傷は罰ではなく、通過の証だった。

 失われた部分を抱えたまま、道は次の層へと続いている。



---



◆「隬」ルート


― 近づく・境界へ寄る道


 銀は薄くなり、霧との境目が曖昧になる。

 道と周囲の区別が消え、歩いている感覚さえ遠のく。

 祠の領域と外界、その狭間へと近づいているのが分かる。

 まだ越えてはいない。

 だが、戻る距離も失われつつある。

 銀は境界そのものとなり、次の選択を静かに待っていた。

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