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エルド奇譚:迷宮の祠と真名の石  作者: VIKASH
第一の試練

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Dルート 真正面から斬り込む

◆ ②《紅の道》Dルート

選択:真正面から斬り込む



 ガルラル・ハウンドの咆哮が広間を裂いた。


 その声は炎が吠えたのではない。

 炎そのものが意志を持ち、怒りをぶつけてきた――そんな錯覚を覚えるほど、凄まじい圧力だった。


 エルドは足を踏み込み、石床を砕く勢いで前へ跳んだ。


 ――間に合う。

 たとえ炎撃でも、放つ前に懐へ潜り込めば――!


 心が熱に焼き切られる前に決然とした叫びが喉の奥で弾けた。

 剣を両手で構え、全身の力を刃の線に込める。


「行く……ッ」


 広間の空気が一気に弾ける。

 熱で視界が揺れ、赤い残像がいくつも残る。

 だが、エルドは迷わなかった。


 勇気は迷いを斬る。

 そう教えてくれた人が、かつていたのだ。


 ――ならば。


 この一撃で、道を切り開く。


 だが。


 その決意が刃に宿るよりも速く、魔獣の喉奥から白熱した閃光が噴き上がった。


 赤ではない。

 橙でもない。

 視界を白く塗りつぶす、神々しいほど純粋な白炎。


 轟ッッ


 爆発した火力が、広間を灼熱の奔流で覆い尽くした。

 速い。早すぎる。


 エルドの身体はまだ踏み込んでいる途中――

 避けることも、斬ることもできない。


 刹那、導きの欠片が腰袋の中で強烈に震えた。

 まるで何かを守ろうと必死に叫んでいるような光の震え。


 炎は直撃した。


 視界が白く染まり、音が消え、熱だけが世界を満たす。


 石床が砕け、壁がえぐれ、空気そのものが焼け付いた。


 エルドの身体も、その中へ飲み込まれる――はずだった。


 しかし。


 寸前で、世界が折れた。


 真っ白な光が裂け、蒼の亀裂が走る。

 その裂け目は広がり、エルドの身体を吸い込むように包み込み――



---



◆ 気がつけば、迷宮の祠の入口


 冷たい空気が頬を撫でた。

 見覚えのある石造りの壁、松明の揺れ、封印の扉。そのすべてが、最初の場所に戻っていることを示していた。


「……戻された?」


 焦げ跡も熱も残っていない。

 服も無事だ。

 けれど、胸の奥にだけ、重く鈍い痛みが残っている。


 恐怖ではない。

 あれは――悔しさだ。


 導きの欠片を取り出すと、石は淡く光り、微かに震えた。


 その光が、優しく告げているようだった。


 “勇気とは、ただ突っ込むことではない”


 祠の扉が、再びゆっくりと閉じる。


「……今度こそ、正しい道を選ぶ」


 エルドは拳を握りしめ、深く息を吸った。


 もう一度挑むために。

 勇気を、正しい形に変えるために。




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