「分」―《古代の兵士》
◆「分」ルート《誤差残存 ― 断絶兵装の章》
門の内側は、距離が定まっていなかった。
一歩踏み出すごとに、進んでいるのか、近づかされているのかが曖昧になる。空間は伸縮を繰り返し、時間だけが一定の速度で擦り切れていく。
そこに立っていたのは、兵士だった。
砕けた鎧は、修復されることを拒むように歪み、胸部には致命傷の痕跡が残っている。だが血はなく、腐敗もない。
生き残った存在ではない。
死にきれなかった存在でもない。
本来なら成立しなかった分岐に取り残された、“計算外”の残留物。
兵士の足元では、時間が均等に分断されている。
一歩ごとに区切られた不可逆の区画。
戻ることも、飛び越えることもできない。
エルドが視線を向けた瞬間、兵士の輪郭が一瞬だけ揺らいだ。
この存在が、すでに何度も書き換えられ、そのたびに削除されきれなかったことを示している。
兵士は、恨みを向けない。
哀れみも、救済も求めない。
ただ、“結果だけが残る世界”を、その身で証明していた。
世界を書き換える力は、奇跡ではない。
優先順位を操作する行為だ。
選ばれなかったものは消える。
だが、完全には消えない。
兵士の背後で、いくつもの戦場が重なり合う。
勝利した歴史。
敗北した歴史。
そもそも発生しなかった歴史。
それらが同時に存在し、互いに干渉せず、ただ“誤差”として沈殿している。
記憶核が反応する。
甘美な衝動。
必要なものだけを残し、不要な犠牲をなかったことにする誘惑。
だが、兵士は動かない。
その存在自体が、警告だった。
「力は選べるが、結果は選べない」
言葉が落ちた瞬間、兵士の背後の戦場が崩れ落ちる。
消滅ではない。
計算からの除外。
兵士の姿も、そこで固定された。
消えもせず、救われもせず、ただ“ここにいる”。
門の向こうで、世界は次の段階へ進む準備を整えている。
エルドがどれほど慎重に選ぼうと、
選ばれなかった可能性は、必ずどこかに溜まり続ける。
このルートで得られたのは、力ではない。
覚悟でもない。
進めば、誰かが誤差になる。
その事実を、否定できなくなる視座だけが残った。
兵士は、最後まで振り返らなかった。
世界が前に進むたび、その背中が増えていくことを、知っているかのように。
---
「闘」ルート
去ろうとする古代兵士を呼び止め、避けられない戦いを選ぶ道。すでに歴史から零れ落ちた存在との交戦は勝利も敗北も確定せず、戦う行為そのものが世界の誤差を拡大させていく。兵士を倒しても何も回収されず、残るのは力を行使したという事実だけの、無補償の対決。
---
「刀」ルート
空間そのものを媒介に刀を形成し、断ち切る手段を得る道。形成された刃は使用者にも等しく代償を課すもろ刃であり、振るうたびに記憶と存在が削られていく。それでも選ばれる唯一の武装、世界と自身を同時に切り裂く決断。
---
「冬」ルート
氷の呪文によって時間と空間を凍結し、兵士との関係性そのものを停止させる道。勝敗を結ばず、誤差を破壊も修復もせず封じ込める選択。進行も後退も拒んだ結果として残る、永続する静止状態。
◆さぁ、選びたまへ




