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エルド奇譚:迷宮の祠と真名の石  作者: VIKASH
第六の試練

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「時」―《喪失を守る老人》

◆「時」ルート《喪失を守る老人》

――記憶保存位相




 門の内側は、音が薄かった。

 空間そのものが摩耗し、時間だけが沈殿している。歩を進めるごとに、足元の感覚が過去と現在の境目を失っていく。



 老人は、すでにそこにいた。

 いつから存在していたのか判別できない佇まい。杖は床に触れていないのに、確かに重みを支えている。白髪は時間に晒された結果ではなく、時間そのものが絡みついた痕跡のようだった。



 周囲には、壊れた記憶の欠片が漂っている。

 声にならなかった言葉、選ばれなかった行動、成立しなかった関係性。

 それらは消失しているのではない。

 “保管”されている。



 エルドが一歩近づくと、老人の足元で床の紋章が静かに回転を始めた。円環は閉じておらず、どこか一部が欠けている。その欠落こそが、この場の役割を示していた。



 老人は、失われた仲間の名を呼ばない。

 代わりに、名が存在していた“余白”を示す。

 そこには痛みも後悔もない。ただ、選択が起きた事実だけが沈んでいる。



 この場所は、記憶を戻すための場ではない。

 取り戻せなかったものを、世界から消し去らずに済ませるための層だ。

 忘却ではなく、凍結。

 否定ではなく、保留。



 老人の背後で、時間が折り重なり始める。

 改変された世界線と、改変されなかった可能性が、互いに触れぬまま並走している。どちらも真実であり、どちらも未完成だ。



 エルドの内側で、上書きされた記憶が静かに軋む。

 違和感は消えない。だが、それは傷ではなく、錨のように意識を現在へ繋ぎ止めていた。



 老人は、杖をほんのわずかに傾けた。

 その動きに合わせ、欠けた円環が閉じることはないまま、回転を止める。




「失われたものを抱えたまま進むなら、それは喪失ではなく、選択になる」




 言葉が落ちた瞬間、時間の重なりが静止した。

 取り戻す道は閉じられ、否定する道も現れない。

 ただ、保存された欠損だけが、未来への重さとして残る。



 門の向こうで、世界は改変後の形を保ったまま脈打っている。

 仲間の不在は埋められない。

 しかし、その空白は、以後の選択を歪めないための基準点となった。



 エルドは理解する。

 記憶を上書きした代償は、忘れることではない。

 忘れられないまま、前に進むことなのだと。



 老人の姿は、いつの間にか時間の層へ溶けていた。

 だが、喪失だけは消えない。

 それは守られ、固定され、未来へ持ち越される。



 この世界は、まだ破綻していない。

 その理由が、ひとつ増えただけだった。




---




「進」ルート

 喪失を抱えたまま前進する選択をする道。祠の歪みや時間の揺らぎに晒されながらも、困難から目を逸らさず進み続けることで、世界線は次第に固定されていく。失われたものは戻らないが、その空白は意思の重さとして未来を支える基準となり、後戻りできない覚悟が物語を次の局面へ導く。



「退」ルート

 結果を理解したうえで引き返す道。だが迷宮の祠には転移魔法が施されており、退却は安全な帰還を意味しない。行き先不明の転移によって、似て非なる世界へと投げ出され、選ばなかった未来の影響と向き合うことになる。回避したはずの困難は、形を変えて再び立ちはだかる。




◆さあ、選びたまゑ

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