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エルド奇譚:迷宮の祠と真名の石  作者: VIKASH
第六の試練

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№12 《蒼弦の律界》

◆ №12:蒼弦の律界

――流れと歩調を合わせる世界――



 衡珠の脈が、これまでとは異なる周期を刻み始めたとき、境界の地は色を変えた。白と黒の滲み合う灰は後退し、代わりに淡い蒼が、空と地の境を満たしていく。鮮やかではない。だが確かに、冷たく澄んだ色調が、全体を一つの律動へ編み込んでいた。


 地面はもはや鏡ではなかった。踏みしめるたび、微かな振動が返る。音としては立ち上がらないが、周期として伝わる。呼吸の間隔、歩みの速度、衡珠の脈動。それらが干渉し合い、ずれれば滲み、合えば澄む。


 この領域に、固定された中心はない。上も下も、基準点としての意味を失っている。代わりに、流れがある。始まりと終わりを持たず、増幅も停滞も拒む、一定の律。世界はそれに従って動いていた。


 〈審判の衡珠〉は光を放たない。白珠も黒珠も主張を退き、蒼の律に同調している。量るための目盛りは溶け、判断の鋭さは丸められていく。ここでは、断ち切ることも、照らし出すことも最優先ではない。


 代わりに求められるのは、合わせることだった。


 周囲に影が現れる。だがそれらは、歪みや苦悶を帯びていない。過去の失敗でも、未練の残滓でもない。世界の流れに取り残され、拍子を外した存在。速すぎた者、遅すぎた者、力を振るう位置を誤った者。


 律界は、それらを裁かない。位置を修正する。


 影は引き寄せられも、押し戻されもせず、ただ律動の中へと溶け込んでいく。個としての輪郭は薄れ、役割は再配置される。救済とも処罰とも呼べない変化。流れに乗るという、単純で厳密な再編だった。


 ここで未来は固定されない。だが、完全な自由も存在しない。律から外れれば、必ず歪みが生じる。その歪みは即座に是正され、過剰な跳躍は許されない。世界は安定し、同時に、爆発的な変革を失う。


 衡珠が示すのは、選択肢ではなく許容範囲だった。どこまでなら崩れないか、どの速度なら破綻しないか。その指標が、蒼の振動として刻まれる。


 やがて、境界の外側が見え始める。律界の縁に、わずかな揺らぎが生じていた。蒼の律から外れかけた流れ。そこには、まだ定義されていない可能性が集まっている。正規の審判では扱えない、未成熟で、不安定な未来の芽。


 それらは、この場では整えきれない。律界は安定を保つ代わりに、逸脱を内包しないからだ。


 蒼の色が、さらに淡くなる。境界が開き、別の流れが重なり始める。ここは終点ではない。主道でもない。だが、確かに接続点だった。


 律界は選ぶことを許さない代わりに、渡ることを許す。調和を保ったまま、別の可能性へと移行するための中継地。正規ではないが、切り捨てられてもいない道。


 衡珠は微かに震え、蒼の律から離れる準備を整える。その振動は、次なる分岐の存在を否定しない。むしろ、示唆していた。


 世界と歩調を合わせるだけでは辿り着けない場所が、確かに存在する。律を知ったからこそ、踏み出せる外側がある。


 蒼は静かに退き、境界の先に、別の色が滲み始める。


 ここで、この道は役目を終える。

 終わりではなく、接続として。



























《蒼の道へ》

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