表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルド奇譚:迷宮の祠と真名の石  作者: VIKASH
第六の試練

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/108

№11 《断章の黎境》

◆ 正規ルート №11


 《断章の黎境 ― 継がれゆく物語の境目》




 衡珠の脈動が変わった瞬間、境界の地は静かに歪んだ。

 光の大樹の根元に広がっていた均衡の空間は、まるで書きかけの書物を閉じ直すかのように、層を重ねて沈んでいく。


 代わりに現れたのは、終わりも始まりも判別できない広野だった。

 地面には道がなく、空には星がない。

 ただ、宙を漂う無数の光片が、言葉にならなかった出来事の残滓のように浮かんでいる。


 それらは物語の断章だった。

 完結しなかった決意。

 途中で折れた選択。

 語られぬまま消えた未来。


 審判の場では裁かれなかったもの。

 否定も肯定もされず、時間の狭間に置き去りにされた可能性。


 エルドが一歩進むたび、足元の光片が淡く震え、映像を結ぶ。

 かつて守れなかった約束。

 選ばれなかった道。

 誰にも記憶されず、しかし確かに存在した生の痕跡。


 それらは罪ではなかった。

 失敗でもなかった。

 ただ、続きを失った物語だった。


 衡珠が静かに回転する。

 白珠は断章の輪郭を浮かび上がらせ、黒珠は歪みを映し出す。

 だが、ここでは切り捨てるための量りは用いられない。


 この地で求められるのは、選別ではなく編纂だった。


 光片のひとつが、形を結び始める。

 それはかつて影として現れた存在の記憶の続きだった。

 裁かれ、導かれ、それでも先へ進めなかった理由。

 世界に返されたはずの未来が、どこにも接続されていなかった事実。


 物語には、続きを受け取る器が必要だった。

 受け取る意思がなければ、未来は流れの中で散逸する。


 エルドは立ち止まり、衡珠に手を添える。

 審判の継承者としてではなく、物語の担い手として。


 そのとき、境界の奥で、断章同士が共鳴を始めた。

 孤立していた光片が、互いに引き寄せ合い、因果の糸を結び直す。

 失われた選択が、新たな前提となり、語られなかった行為が意味を持ち始める。


 ここでは、過去は修正されない。

 なかったことにもならない。

 ただ、次の頁へ送られる。


 編まれるのは救済ではなく、連続性だった。


 その中心で、衡珠が一瞬だけ静止する。

 白と黒の間に、灰色の線が生まれ、断章の地平を貫いた。


 短い言葉が落とされた。


「続けよう」


 声は広がらず、残響も残さない。

 だが、その一言は合図として十分だった。


 光片は次々と道を得る。

 ある物語は別の人物の選択として再生され、

 ある未来は遠い時代の予兆として沈み、

 ある断章は、まだ生まれていない存在の始まりとなる。


 エルドはすべてを決めない。

 だが、すべてを繋ぐ責任からは退かない。


 審判の力は、ここで形を変えた。

 量るための秤は、編むための基準へと昇華する。

 正しさではなく、断絶を生まないことが基軸となる。


 やがて、広野はゆっくりと閉じていく。

 断章は世界の各層へと分配され、物語は再び流れを持つ。


 境界の地に残ったのは、静かな余白だけだった。


 審判の継承者は、もはや裁定者ではない。

 終わらせる存在でもない。


 語られなかった続きを、未来へ渡す者。


 衡珠は再び脈動を始める。

 次に現れるのは、まだ編まれていない物語。


 断章の黎境は役目を終え、同時に永続する。

 世界のどこかで、物語が途切れる限り、この境界は再び開かれる。


 未来は固定されない。

 だが、途切れもしない。


 それが、この正規ルートが示した、新たな法だった。



---



 ◆「凝」ルート ― 収束の章


 散在していた断章が一点へと凝集する。

 選択肢は減り、未来は硬質な輪郭を持ち始める。

 流れは止まり、深く定まる。

 動かぬことが停滞ではなく、世界を支える軸となる道。

 エルドは多を救わず、ただ一つを確かに残す。



---



 ◆「虎」ルート ― 越境の章


 断章は力を得て、境界を破る。

 蓄えられた可能性が跳躍し、抑制を拒む。

 危うさと覚悟が並び立ち、進路は常に鋭い。

 制御ではなく踏み出す勇気を選ぶ道。

 失敗すら前進として刻まれる。



---



 ◆「黎」ルート ― 萌芽の章


 夜明け前の薄明が世界を包む。

 断章は完全な形を持たず、微かな兆しとして残る。

 確定しない未来が希望となり、静かに育まれる。

 決断を急がず、余白を信じる道。

 始まりはいつも淡い。



---



 ◆「境」ルート ― 閾値の章


 断章は世界の縁に留め置かれる。

 越えることも、閉じることもしない。

 可能性は境目として存在し、他者の選択を映す鏡となる。

 管理でも解放でもない、中間を保つ道。

 世界はここで均衡を測られ続ける。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ