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エルド奇譚:迷宮の祠と真名の石  作者: VIKASH
第六の試練

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№10 《無声の継環》

◆ №10:無声の継環

――沈黙がすべてを継いだ場所――



 衡珠の脈動が、ほとんど感知できないほどまで沈み込んだとき、境界の地から音という概念が失われた。


 止んだのではない。世界から、振動が切り離された。足裏の感触は残っているが、接触に伴う反応がどこにも届かない。鏡面の地は光を返さず、影は輪郭を持たずに均されていく。


 空は依然として高く、広がっている。だが、距離を測る指標が消え、上下も遠近も意味を失った。沈黙の中では、すべてが等しい密度で存在する。


 〈審判の衡珠〉は震えていなかった。白珠も黒珠も輝きを放たず、色だけが薄く滲んでいる。判断を示す兆しはなく、量るという行為そのものが停止を迎えていた。


 この領域は、問いを否定しない。だが、答えが発生する余地を与えない。


 一歩進むごとに、内側の衝動が剥がれ落ちていく。選びたいという欲求、意味づけへの焦燥、正しさを確定させようとする圧力。それらは音を立てずに沈み、戻ることなく溶解する。恐怖も同時に薄れていく。沈黙の中では、感情は拡張できない。


 影が現れる。歪みも苦悶もない、不定形の存在。過ちの象徴ではなく、行為に至らなかった可能性の集合。判断されなかった分岐、選ばれなかった未来、その残滓。


 沈黙は、それらを裁かない。導きもしない。ただ、同じ場に置く。


 影は近づかず、訴えも持たない。願いが生じる前に、沈黙がそれを平坦化する。残るのは、存在の重さだけだった。


 衡珠の色が、さらに失われていく。白と黒の境界が溶け、差異が消失する。照らすことも、断つことも行われない。未来を量る機構は、完全に沈黙へ編み込まれていった。


 時間の感覚が解体される。過去と未来は区別を失い、行為と結果は同一平面に並ぶ。価値は比較されず、意味は抽出されない。すべてが循環の素材として配置され直される。


 そのとき、変化が起きた。


 影が、役割へと還元され始めた。再生でも消滅でもない。世界の底を支える構造材として、名も形も失ったまま固定されていく。声を持たず、記録にも残らず、ただ循環を維持するための要素へ。


 継環は完成へ向かう。声なき継承が、判断を必要としない形で閉じていく。


 衡珠は、再び脈を打たなかった。必要がなかったからだ。判断は発生せず、選択も生まれない。沈黙そのものが、唯一の安定として確定した。


 音は戻らない。戻す理由が失われた。


 境界の地は存在し続ける。だが、そこに立つ意味は変質した。量る者は不要となり、未来は固定される。崩れにくく、揺らがず、しかし新しさを含まない状態へ。


 沈黙は世界を守った。

 同時に、世界から変化を奪った。


 奇跡は起こらない。破綻も起こらない。称号も、物語も、生まれない。均衡は完璧に保たれ、その完璧さゆえに、更新される余地を失う。


 〈審判の衡珠〉は、ただの構造物となった。証明ではなく、封印として。


 循環は続く。

 だが、それは進行ではない。


 ――沈黙によって閉じられた、終わりなき均衡。


 ここにおいて、道は完結した。

 次は、存在しない。


























《アナザーエンド》

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