№8 《蒼輝の巡輪》
◆ №8《蒼輝の巡輪 ― 還り続ける選択》
衡珠の脈動が、これまでとは異なる律を刻み始めた。
白と黒が重なり合うたび、淡い蒼光が周囲に滲み、空間はゆっくりと円環を描く。
そこは道ではなかった。
進行でも後退でもない。
始まりと終わりが重なり合う、閉じた巡りの領域。
蒼輝の巡輪は、過去を否定しない。
未来も確定しない。
選ばれなかった可能性を破棄せず、ただ回し続ける。
エルドが足を踏み入れた瞬間、世界は一度、完全に静止した。
次の瞬間、視界は淡く反転し、かつて立っていた場所が、再び目前に現れる。
光の大樹。
沈黙する衡珠。
最初の審判の気配。
違いは、微細だった。
空気の密度。
影の長さ。
胸奥に残る、かすかな既視感。
蒼輝の巡輪は、同じ時間を繰り返させる装置ではない。
繰り返されるのは「選択の構造」そのものだった。
影は再び現れる。
かつて導かれた存在。
別の未来を与えられたはずの断章。
それらは微妙に異なる形を取り、同じ問いを投げかける。
どこへ行けばよいのか。
何を選ぶべきか。
衡珠は答えを示す。
だが、その答えは、前の巡りと完全には一致しない。
再生の道が、留保へ変わることもある。
輪廻が、停滞へと置き換わることもある。
判断は変化し、結果も変わる。
それでも、結末だけは変わらなかった。
すべての影が流れ去り、空が淡い灰に染まると、世界は再びほどける。
蒼光が円を描き、視界は閉じ、そして――戻る。
最初の場所へ。
巡輪の本質は救済ではない。
学習でもない。
可能性を削らずに保管するための循環だった。
選ばれなかった未来は、失われない。
だが、前へも進まない。
エルドはやがて理解する。
このルートでは、どれほど正確に量ろうとも、世界は次へ渡らない。
量られた未来は、常に再配置され、巡りに還元される。
均衡は保たれる。
破綻も生じない。
だが、決して完成しない。
巡輪の奥で、わずかな異物が混じり始める。
蒼光の中に、微細な色の乱れ。
赤に近い、熱を帯びた線。
それはまだ道ではない。
ただ、円環に触れかける別の軌跡。
巡りが長く続くほど、その色は僅かに濃くなる。
蒼の循環が保つ安定に、わずかな緊張が生まれる。
このルートは正規ではない。
世界を前進させない代わりに、崩壊も拒む。
選び続ける者を、選択の起点へと戻し続ける。
やがて、再び始まりの静寂が訪れる。
金色の風が、初めて吹いたときと同じ角度で止まる。
〈審判の衡珠〉が、深く沈む。
周囲の影が、わずかに反転する。
空間が裏返る。
光の大樹の根元に、新たな階層が現れる。
それは、最初と同じ光景だった。
だが、完全に同じではない。
蒼輝の巡輪は閉じない。
終わらない。
そして、ある色の道が、まだ選ばれていないことだけを残す。
循環は続く。
選択は戻る。
未来は、まだ量られ続けている。
《紅の道へ》




