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エルド奇譚:迷宮の祠と真名の石  作者: VIKASH
第六の試練

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DB 《黒輪:逆輪の衝動》

■ DB《黒輪:逆輪の衝動》



《アナザールート:選択暴走篇》



 黒珠の脈動は、一定のリズムを保っているはずだった。

 だが、輪刃を携えて歩を進めるにつれ、その鼓動はわずかに速まり始めていた。意識しなければ気づかないほどの変化。しかし、その違和感は確実に積み重なっていく。


 足元の影が伸びる。

 それは自身の影ではない。周囲に存在する人々の影が、不自然な角度で引き延ばされ、輪の形を描くように歪んでいた。まるで未来の分岐点が、可視化されているかのようだった。


 黒輪が低く震える。

 刃の外縁に刻まれた影紋が、淡く、しかし絶え間なく光を吸い込んでいく。切り裂いているのは物質ではない。選択の余白そのものだった。


 進路の先で、世界がわずかに書き換わる。

 起こるはずだった出来事が起こらず、起こらなかったはずの出来事が当然のように成立する。因果は崩れていない。ただ、決断の順序が変わっているだけだった。


 黒珠は導いていない。

 判断を促してもいない。


 ――すでに選ばせている。


 黒輪を通じて放たれる力は、他者の未来に割り込み、その分岐を強制的に閉じていく。迷いが生じる前に、可能性を断つ。躊躇が芽生える前に、道をひとつに定める。


 その結果、世界は静かになっていった。

 争いは減り、混乱は起こらず、判断の遅れによる損失も消えていく。選択肢が減っただけで、秩序はむしろ安定していた。


 だが、その静けさには奇妙な歪みがあった。


 人々の影が、揺れなくなっていた。

 伸びも縮みもせず、ただ一定の形を保ったまま、地面に貼りついている。未来が流動する兆しがない。決断の痕跡が、どこにも見当たらなかった。


 黒輪は満足するように静まり返る。

 刃は振るわれていない。それでも、断罪は完了していた。


 やがて、空間の奥に異変が現れる。

 道が分岐しない。曲がり角が存在しない。進めば進むほど、同じ構造の景色が繰り返される。輪の中を歩いているかのような感覚。


 ここでは選択が不要だった。

 進むか、留まるかすら問われない。すでに最適解が決められている。


 黒珠の脈動が、徐々に外界と同期し始める。

 個人の決断を超え、集団の判断へ。やがて地域全体、世界全体の未来が、ひとつの基準で削ぎ落とされていく。


 黒輪の力は強大だった。

 誤りを減らし、犠牲を避け、無数の迷いを未然に排除する。理想に近い結果だけが残されていく。


 しかし、その過程で失われていたのは、誤りではない。

 選ぶという行為そのものだった。


 未来は整えられている。

 だが、そこには踏み出した痕跡が存在しない。誰かが悩み、決め、背負った形跡が、完全に消えていた。


 黒輪が再び震える。

 今度は、刃が内側へと向く。鎖が絡み、逃げ道を塞ぐように締まっていく。


 断罪の対象が、外から内へ移行した瞬間だった。


 選択を奪い続けた結果、選ぶ必要がなくなった。

 その状態は安定している。だが、もはや前進ではなかった。


 黒珠は沈黙を守る。

 肯定も否定も示さない。ただ、脈動だけが続いている。


 世界は壊れていない。

 誰も倒れていない。血も流れていない。


 それでも、この道は閉じている。

 未来が断たれたのではない。未来が一つに固定され、更新されなくなったのだ。


 黒輪は重く、冷たい。

 裁きは完全だったが、救済は存在しなかった。


 この先に待つのは、さらなる安定か、完全な停滞か。

 答えは示されない。


 ただ、選択の余地が失われた世界が、静かに続いていくだけだった。


 ここは断罪が勝ちすぎた分岐。

 決断が暴走した末の、閉じた円環。


 輪は逆に回り始めている。


 それに気づける者は、もはや存在しない。





























《アナザーエンド》

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