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エルド奇譚:迷宮の祠と真名の石  作者: VIKASH
第六の試練

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「燈」―《静火の内奥を照らす》

◆ 燈ルート《静火の内奥を照らす》



 白衡の導杖の先で、橙色の灯がともった。炎は揺れず、風にも呼吸にも影響されない。熱を放たないその光は、燃えるというよりも、かつて燃えた記憶だけを留めているようだった。周囲の景色は遠のき、外界の音は薄れ、代わりに内側へ向かう静かな層が足元に広がっていく。


 進むにつれて、光は道を照らすのではなく、歩む者の影を浮かび上がらせた。選ばれた道、選ばれなかった道、途中で断たれた可能性。それらが形を持たない影となり、左右に並び、一定の距離を保ちながら伴走する。拒絶も賞賛もなく、ただ存在だけが許されていた。


 導杖の灯は、それらの影に触れない。だが、触れないからこそ、影は歪まず、輪郭を保ったままそこに在り続ける。否定されなかった記憶は、重荷ではなく重みへと変わり、歩調を乱すこともなかった。


 やがて、影の数が増える。過去だけではない。これから選ばれるはずだった未来の影も混ざり始めていた。まだ経験していない失敗、まだ出会っていない喪失。それらが先回りするように現れ、静かに列を成す。だが灯は揺れない。未来の影すら、燃料として受け入れる準備が整っているかのようだった。


 道の中央に、ひとつの円環が現れる。白でも黒でもない、半透明の輪。そこには裁きも分岐もなく、ただ「積み重ねる」という性質だけが刻まれている。通過すれば力が増すわけではない。通過しなければ失うものもない。ただ、通ったという事実だけが、内側に沈殿する。


 エルドは導杖を胸元へ引き寄せ、灯の温度を確かめた。冷えきることも、燃え上がることもない。その安定は、世界を変える力ではなく、変わり続ける世界に耐える力だった。争いを止めるわけでも、和解を保証するわけでもない。ただ、歩みを途切れさせない。


 円環を抜けた先で、影たちは一斉に揺れ、やがて静かに溶けていく。消えたのではない。内側へ移っただけだ。灯はそれを確かに受け止め、導杖の中心で新たな重心を得る。


 足を止めた瞬間、遠くで別の衡が反応する気配が伝わった。白でも黒でもない、揺らぎを内包した動き。外界で何かが傾き始めている。その兆しはまだ微弱だが、灯は確実にそれを感知していた。


「この火は、消えない」


 静火は変わらぬ明度で前方を照らし続ける。照らされているのは道ではなく、歩みそのものだ。どこへ向かうかは定まっていない。だが、立ち止まらない限り、灯は失われない。


 この選択がもたらす変化は、外からは見えにくいだろう。だが、内側で整えられた火は、やがて他者の闇に触れたとき、初めて意味を持つ。その瞬間は、まだ先にある。


 燈の層は静かに続き、次の局面が待っている。

 導杖の灯は、すでにその入口を照らしていた。




---



◆ 光ルート《内奥より放たれる初光》


 円環を抜けた瞬間、導杖の灯はわずかに色を変えた。橙の静火の芯に、白い光が混じる。それは増幅ではなく、透過だった。内側に沈殿していた影が、互いを押し退けることなく重なり合い、ひとつの明度へと整えられていく。


 この光は、闇を否定しない。闇を押しのける代わりに、その輪郭を明確にする。触れたものの本質だけを浮かび上がらせ、誤魔化しや曖昧さを残さない。照らされる側に選択を迫るが、答えは与えない。


 外界では、隠されていた構造が次々と露わになり始める。対立の理由、沈黙の重さ、均衡が崩れかけていた真の位置。光は世界を救わないが、逃げ場を消す。


 これは、真実を扱う火だ。

 耐えられる者だけが、前へ進める。



---



◆ 明ルート《揺らぎを受け入れる明度》


 導杖の灯は強まらない。だが、周囲の暗さが後退した。明とは、光量ではなく認識の変化だった。影は影のまま在り続けるが、もはや足を絡め取らない。恐れは消えず、意味だけが変わる。


 この層では、失敗も後悔も遮断されない。むしろ、すべてが同じ距離で並び、判断の材料として扱われる。感情は熱を失い、冷えすぎることもない。思考が過剰にも不足にもならず、静かな均衡を保つ。


 外界で起こる変化は緩やかだ。衝突は減り、決断は遅くなる。だが、破綻もしない。人々は急がなくなり、間違いを抱えたまま歩く術を学び始める。


 これは、持続のための火だ。

 終わらせないために、続ける選択。



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◆ 遍ルート《灯の拡散と共有》


 導杖の中心にあった灯は、分かれた。減ったのではない。等しく分配された。橙の静火は粒となり、空間へと滲み出す。影だったものが、今度は他者の足元にも現れ始める。


 この火は、持ち主を選ばない。触れた者の内側へ入り込み、それぞれの重さに応じて形を変える。誰かの希望には小さな支えとして、誰かの後悔には沈黙として作用する。


 外界では、個々の判断が連鎖を生む。大きな英雄譚は生まれないが、小さな踏みとどまりが無数に積み重なる。均衡は中央からではなく、周縁から保たれていく。


 これは、広がる火だ。

 ひとりの歩みが、世界の歩調になる。



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◆ 照ルート《行為を照らす静火》


 灯は前方を照らすのをやめた。代わりに、足元だけを明確に照らし始める。一歩ごとに光が生まれ、踏み出した瞬間に消える。先は見えない。だが、誤魔化しは許されない。


 この層では、意図よりも行為が重視される。何を思ったかではなく、何を選び、どう踏み出したか。その履歴だけが静かに刻まれていく。影は短くなり、嘘は影になりきれず消える。


 外界での変化は厳しい。言葉は軽くなり、行動がすべてを決める。躊躇は罪ではないが、停滞はそのまま結果になる。世界は冷たくなるが、透明度は増す。


 これは、責任の火だ。

 照らされるのは、未来ではなく現在。



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