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エルド奇譚:迷宮の祠と真名の石  作者: VIKASH
第六の試練

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「朧」―《揺曖の環を抜ける道》

◆ 朧 ―《揺曖の環を抜ける道》



 白衡の導杖が淡く鳴動し、足もとに広がる光の膜が静かにほどけていく。大樹の根はもはや明確な形を持たず、重なり合う層として存在していた。枝でも土でもない、選ばれなかった輪郭の集積。それらが互いに干渉しながら、曖昧な道を形づくっている。


 一歩踏み出すたび、足場は確定せず、沈むようでいて落ちることはなかった。踏みしめた感触は、過去に抱いた判断の迷いとよく似ている。確信を持てなかった選択、形になる前に捨てられた可能性。それらが霧となり、視界の端で揺れている。


 霧の中には、明確な敵も導標も存在しない。代わりに浮かぶのは、結果を迎えなかった分岐の残響だった。進めば消えるわけでも、振り返れば追ってくるわけでもない。ただ並行して存在し続ける。


 白衡の導杖は強く輝かない。進路を示す矢印も描かれない。光は揺れ、滲み、時折、道と同化するように薄れる。だが消えはしなかった。揺曖の層に同調することで、無理に形を与えず、変化を拒まない姿勢を保っている。


 やがて霧の密度が増し、視界は数歩先すら曖昧になる。だが同時に、不思議な安定感が生まれていた。確定しない状態が、もはや不安ではなくなる。選ばなかった道が敵ではないと理解した瞬間、足取りは自然と軽くなった。


 揺らぐ霧の奥に、微かな像が浮かぶ。それは過去の姿ではない。未来の予測でもない。選択されなかった結果そのものが、観測だけを目的として形を持ち始めている。否定されなかった思考が、ここでは消滅せず、静かに存在を許されていた。


 白衡の導杖が、その像に触れたとき、層全体が共鳴する。世界が一瞬、確定しかけるが、すぐに緩やかに解けていく。答えを出さないことが、ここでは正しい反応だった。


 霧の中で、ひとつの概念が明確になる。朧の道は、選択を増やすための道ではない。選ばなかった可能性を背負ったまま進むための構造だった。過去を切り捨てず、未来を固定しない。その中間に立ち続ける覚悟だけが求められる。


 足もとに、これまで見えなかった環が浮かび上がる。円でありながら閉じていない。始点も終点も曖昧で、重なり合うことでのみ存在を保つ輪。その中央に、白衡の導杖が静かに収まる。


 その瞬間、霧がわずかに震え、唯一の波紋が空間に刻まれた。


「未定は、弱さではない」


 波紋は言葉を残さず、意味だけを沈殿させる。揺曖の層は再び静まり、道は前後の区別を失う。それでも歩みは止まらない。進行方向が不明確であること自体が、この道の性質だった。


 霧の奥で、新たな層がゆっくりと形成され始める。朧の環は、まだ一部しか開かれていない。未観測の揺れ、未記録の可能性が、次の重なりを待っている。


 白衡の導杖は、わずかに光を残したまま沈黙する。その沈黙は終わりではなく、次の選択が生まれる余地だった。


 揺曖の道は続く。

 確定しないまま、世界と共に進むために。




◆ 朧・四分岐を選択せよ


《揺曖より派生する四つの道》



朧の環を進むほど、霧はただ曖昧なのではなく、“方向性を秘めた揺れ”へと変質していく。

やがて環の中心が四つに裂け、それぞれ異なる“未確定の扱い方”を示し始める。



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●「忘」ルート


《自我希薄 ― 記憶を手放す道》


 霧が濃くなり、過去の輪郭が次々と薄れていく道。

 選ばれなかった可能性だけでなく、選び続けてきた理由すら、少しずつ溶け出していく。


 ここでは記憶は重荷とされない。

 だが、支えにもならない。


 判断は軽くなるが、積み重なりは消える。

 世界との摩擦は減るが、足跡も残らない。


 忘の道は、苦しみからの解放を与える。

 同時に、“物語を継承する主体そのものを希薄”にしていく。



---



●「却」ルート


《選別の環 ― 可能性を退ける道》


 霧が刃のように研ぎ澄まされ、不要な揺れが切り捨てられていく。

 曖昧であることを許しつつも、すべてを抱えることは選ばない。


 ここでは、未確定であっても**不要と判断された可能性は明確に却下される**。

 白衡の導杖は、初めて鋭さを帯びる。


 進路は安定し、決断の精度は上がる。

 だが、後戻りの余地は急速に失われていく。


 却の道は、破綻を管理できる。

 その代償として、“影の声は徐々に遠ざかる”。



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●「彼」ルート


《他者観測 ― 自身を外側に置く道》


 霧の中に、別の視点が生まれる。

 それは過去でも未来でもない、“第三者としての自己”だった。


 この道では、判断は常に一歩遅れて下される。

 感情も欲求も、観測対象として並べられる。


 選択は安定するが、熱を帯びない。

 世界は理解できるが、完全には関与できない。


 彼の道は、最も安全で、最も遠い。

 物語の中心から静かに外れていく代わりに、全体を俯瞰する力を得る。



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●「岸」ルート


《境界停留 ― 渡らない選択の道》


 霧が水面へと変わり、こちらと向こうを分かつ境が現れる。

 渡ることも、引き返すことも強制されない。


 岸に立つ者は、両側の可能性を同時に観測できる。

 だが、どちらにも属さない。


 決断は保留され、世界は常に分岐の手前で静止する。

 破滅も救済も起こらない。


 岸の道は、“未来そのものを保留する力”を持つ。

 それは最も静かで、最も危険な均衡だった。



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