№6 《変革の王核》
◆ №6《変革の王核》―― 王家という仕組みを越えて
光と影が交互に脈打つ大樹の核で、エルドは異質な紋章に手を伸ばしかけ、そこで立ち止まった。形を持たぬその核は、触れれば全てを書き換える力を秘めている。だが同時に、何一つ確定させぬ空白でもあった。
紋章は応じない。いや、拒んでいるのではない。問うていた。王家を越えた先に、果たして「継ぐ」という行為は残るのか。制度を溶かし、王を機能へ還した後、責任はどこに留まるのか。
大樹の内部で、かすかな不協和が生じる。新たな循環路は完全には形成されず、既存の金の枝と影の節が、互いに張力を保ったまま静止する。変革は起動しきれず、しかし否定もされない。宙づりの状態が、核そのものとして固定されていく。
エルドの胸に刻まれた紋は、回路図ではなく、未完成の断線だった。接続は可能だが、自動ではない。誰かが意図を持って触れぬ限り、変化は始まらない印。
王家の構造は保たれる。だが、それは安定ではない。変革が可能であることを知ったまま、踏み込まれぬ余白として残される。血と誓約は依然として力を持つが、絶対ではなくなる。更新されない制度は、静かに緊張を孕み続ける。
歴代の王の影は沈黙する。ざわめきもない。ただ、決断が先送りされた事実だけが、大樹の年輪に刻まれていく。
エルドは核から手を離す。今は起動させない。それもまた選択だった。変革は、常に正しいとは限らない。耐えきれぬ時代にだけ、解放されるべき力もある。
大樹の中心に残されたのは、玉座でも王核でもない。
「いつでも壊せるが、まだ壊さない」という沈黙の余地。
王家は続く。
だが、その足元には、決して消えない可能性の亀裂が走っていた。
変革は起こらなかった。
しかし、封じられたわけでもない。
《アナザーエンド》




