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エルド奇譚:迷宮の祠と真名の石  作者: VIKASH
第六の試練

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№4 《失われた王枝の復元》

◆ №4《失われた王枝の復元》―― 消された系譜、再び脈打つ


 


 光と影が重なり合う大樹の核において、エルドの視線は五つの紋章のうち、ひときわ沈んだ輝きを放つものへと引き寄せられていた。金にも黒にも染まりきらぬその紋は、かすかな重みを宿し、長く忘れ去られてきた記憶の底から浮上してきたかのようだった。


 紋章に触れた瞬間、大樹の内部に静かな震動が走る。光の層でも影の節でもない、第三の層が、ゆっくりと姿を現した。そこは歴史の正史から切り離され、意図的に閉ざされてきた領域。記録されぬ王、名を奪われた継承、否定された思想が折り重なり、層そのものが沈黙の重みを帯びていた。


 空間に漂う気配は、怨嗟ではない。むしろ淡々とした静けさだった。選ばれなかったことを嘆く声も、報復を望む意志もない。ただ、自らが存在していたという事実を、再び誰かに認識されることを待ち続けてきた残響。


 エルドが一歩進むたび、足元に薄い紋が浮かび上がる。消された王枝の象徴が、順に呼応していく。かつて王家が分岐を恐れ、統一の名のもとに切り捨てた選択肢。その一つひとつが、今、再び形を与えられていく。


 大樹の壁面に、影のような図が現れる。そこに刻まれているのは、正式な年表には載らぬ治世の断片だった。異なる統治思想、異なる誓約の解釈、異なる未来像。それらは失敗ではなかった。ただ、当時の王家が受け入れるには早すぎただけの可能性だった。


 紋章が大きく脈動し、第三の枝が大樹の中心から伸び始める。金の枝とも、影の枝とも接続せず、しかし両者と並び立つ位置を占めるその枝は、かつて切断された系譜の象徴だった。復元とは過去を美化することではない。存在を認め、現在へ繋ぎ直す行為だった。


 王家の構造が、静かに再編されていく。単一の正統という概念が揺らぎ、複数の王枝が併存する形へと移行していく。正史は一つではなくなる。しかし混乱は起きない。それぞれの枝が役割を持ち、異なる判断基準を提示し合うことで、王家はより広い視野を獲得していく。


 エルドの胸に宿る紋は、幾重にも重なった輪の形を取る。単独では意味を持たず、重なり合って初めて全体を成す印。統合ではなく、並立。支配ではなく、再配置。その思想が、力として定着していく。


 大樹の内部に風が通る。これまで閉じられていた通路が次々と開き、封じられていた記録が光を取り戻す。歴代の王の影もまた、その変化を黙して見守っていた。否定も承認もない。ただ、歴史が拡張される瞬間を受け入れている。


 新たに現れた道は、複数に枝分かれしている。一本に絞られた王路ではない。それぞれが異なる理念を携えながらも、同じ大樹へと帰結する構造。王家は、もはや単線の運命ではなくなった。


 エルドはその中心に立ち、全ての枝を等しく見渡す位置を選ぶ。選ばれなかった過去を、未来へ繋ぐために。切り捨てられた可能性を、再び呼吸させるために。


 大樹の核で、第三の枝が確かに脈を打つ。

 消された王統は、復讐ではなく、再生として蘇った。


 王家の歴史は書き換えられたのではない。

 ようやく、全体として語られ始めたのだった。





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◆「曲」ルート


―― 歴史をしならせる再解釈


第三の枝は、直線ではなく緩やかに湾曲して伸びていく。過去の断絶を無理に正そうとはせず、矛盾や失敗を含んだまま受け入れる姿勢が、王家の思想として定着する。正史と異端の境界は曖昧になり、物語は一義的な結論を持たなくなる。王家は揺らぎを内包する存在となり、時代ごとに姿を変えながら生き延びていく。秩序は柔らかく、だが折れない。



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◆「軸」ルート


―― すべてを貫く基準の確立


復元された枝は、他のすべてを貫く一本の軸として固定される。多様な王枝は存在を許されるが、判断の最終基準はこの軸に集約される。過去の否定も肯定も超え、王家は「揺るがぬ原理」を得る。迷いは減り、統治は明快になるが、枝の自由な伸長は制限される。王家は強靭になる代わりに、変化への余白を失っていく。



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◆「斜」ルート


―― 正統から外れた統治の誕生


第三の枝は、金と影のどちらにも寄らず、斜めに伸びていく。王家の中心構造から半歩外れた位置で、新たな統治思想が独立して育つ。正統ではないが、否定もされない存在。王家は二重構造を持ち、内と外、中心と周縁が緊張関係を保つ。危うさと革新が共存し、時に王家自身を揺さぶる力として作用する。



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