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エルド奇譚:迷宮の祠と真名の石  作者: VIKASH
第五の試練

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CF 《不死鳥の籠》

 ◆ CFルート《不死鳥の籠》

 《正規ルート分岐:再生と忘却の循環》



 不死鳥の籠へ踏み出した瞬間、空気の密度が変わった。熱は感じられない。それでも、皮膚の奥をなぞるような微細な震えが、存在の輪郭を揺らしてくる。ここは燃焼の場ではない。生命が循環する、その「途中」にあたる領域だった。


 天空に浮かぶ円環は、距離感を狂わせる。近づいているはずなのに、輪郭は一定の大きさを保ったまま、まるで時間そのものが伸び縮みしているようだった。炎の線は羽根の形を成し、ゆっくりと回転しながら、規則性のない軌道を描く。その一つひとつが、かつて燃え、灰となり、再び光を得た痕跡のようにも見える。


 足元には道がない。それでも、踏み出すたびに見えない床が形を成し、炎の光が淡く照らした。夢界の欠片は、ここへ来てから確実に変質している。黒紅だった脈動は薄れ、代わりに柔らかな紅が中心から滲み出していた。力を主張する鼓動ではない。調律を求めるような、穏やかな振動だった。


 円環の内側へ進むにつれ、視界の端に断片的な像が浮かび上がる。かつて通り過ぎた迷宮の回廊、選択しなかった扉、触れずに去った結晶。それらは明確な記憶ではなく、意味だけを残した影として漂っていた。ここでは、記憶は保存されない。燃やされ、形を失い、それでも完全には消えず、次の循環へ溶け込んでいく。


 籠の中心に近づくと、焔は次第に静まり、空間には灰が降り積もっていた。灰は冷たく、しかし死を連想させるものではない。終わりを経由した証として、すべてを均一に覆っている。そこに刻まれた足跡はすぐに崩れ、形を保たない。過去に縛られることを拒むように。


 その灰の中央に、不死鳥の核があった。姿はない。ただ、再生の概念だけが凝縮された空白が、確かに存在している。夢界の欠片は、その空白に引かれるように浮かび上がり、ゆっくりと分解され始めた。欠片としての形を失い、光と熱と意味に分かれていく。


 ここで何かを得ることは、何かを失うことと同義だった。だがそれは等価交換ではない。忘却によって空いた場所に、別の可能性が流れ込む。迷宮が求めているのは、過去を背負い続ける存在ではなく、循環に耐えられる器だった。


 炎の輪が一瞬だけ強く輝き、空間が収縮する。灰は舞い上がり、光へと変換される。その中心で、不死鳥の意思が形を持たないまま波紋を広げた。


「燃え尽きたものだけが、次の翼を持つ」


 その一言は、命令でも祝福でもなかった。ただ、ここがどのような場所であるかを示す定理のように、静かに響いた。


 光が収束し、籠は再び円環としての静けさを取り戻す。灰は消え、炎は羽根の軌道へ戻った。夢界の欠片は、もはや欠片ではない。新しい核として、胸の奥で微かに回転を始めている。記憶の重さは軽減され、代わりに説明できない確信だけが残った。


 不死鳥の籠は閉じない。常にそこにあり、同時に誰も留まれない。再生とは、立ち止まらないことそのものだからだ。


 円環の外へ踏み出すと、空はすでに赤から淡い金へと移ろい始めていた。失われたものの名を思い出すことはできない。それでも、進む理由だけは確かに残っている。


 燃焼を経た存在として、次の迷宮はすでに別の姿を見せ始めていた。






---



■ CFルート:不死鳥の籠 ― 分岐選択


 不死鳥の籠の中心で、焔は渦を巻くように静止していた。

 燃え盛っているはずの空間には熱がなく、代わりに「循環する意志」だけが満ちている。


 焔は破壊の象徴ではない。

 終わりと始まりを等しく抱え込み、同じ形を拒み続ける存在そのものだった。


 夢界の欠片が紅く輝き、籠の奥で三つの炎が分かれていく。

 それぞれが異なる性質を持ち、異なる未来を示していた。


 ここから先は、力を「得る」選択ではない。

 何を代償にするかを決める分岐だった。


「燃え続ける意思を、どこに宿すか」


 ――それが、この籠が差し出す唯一の言葉だった。



---



◆ 「翼」:不死鳥の隻翼


――飛翔の継承


 紅蓮の焔が背後へ回り込み、片側だけの翼を形作る。

 完全な翼ではない。それは「逃げるための力」でも、「天を支配する力」でもなかった。


 隻翼は、落ちることを恐れない者にだけ与えられる補助輪だった。


 地に足を残したまま、必要な時だけ空へ踏み出せる。

 飛行は永続ではなく、意志と集中を失えば、再び地へ戻される。


 この力は、世界を俯瞰させる代わりに、

 常に「どこへ降りるか」という選択を迫り続ける。


 自由とは、逃げ場ではない。

 戻る場所を選び続けることだと、隻翼は静かに示していた。



---



◆ 「月」:炎の心臓


――循環の受肉


 籠の中心で焔が凝縮し、脈動する核となる。

 それは臓器の形をしていない。

 ただ、鼓動だけが確かに存在していた。


 炎の心臓を受け入れた瞬間、肉体は老いを止める。

 傷は再生し、時間は意味を失う。


 だが、この不老不死は「留まる力」ではない。

 終わりを失う代わりに、変化を強制され続ける存在となる。


 同じ姿、同じ立場、同じ感情は保てない。

 生き続けるとは、常に何かを失い、別の何かへ移行することだった。


 永遠は安息ではなく、

 終わりなき更新そのものだった。



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◆ 「陽」:炎帝のつるぎ


――意志の具現


 焔が一点へ収束し、刃の形を取る。

 それは物質ではなく、「決断の結晶」だった。


 剣は常に炎を纏うが、触れても熱はない。

 燃やすのは物ではなく、迷い・停滞・偽りだけ。


 振るうたび、世界は一つの可能性を失う。

 選ばれなかった未来が、炎の中で静かに消えていく。


 この剣は、振るった者を強くする代わりに、

「戻れない選択」を積み重ねさせる。


 炎帝の剣とは、力の象徴ではない。

 選び続けた責任が、形を持ったものだった。



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