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エルド奇譚:迷宮の祠と真名の石  作者: VIKASH
第五の試練

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CE 《皇帝の砦》

◆ CEルート《皇帝の砦》を継ぐ



 ──王とは、支配する者ではなく、背負う者である──



 皇帝の砦へ足を踏み入れた瞬間、世界の温度が一段低くなった。風は吹いているはずなのに、空気は凍結した湖面のように動かない。音という概念だけが置き去りにされたかのようだった。


 城壁は高く、過剰なほどに整っている。侵入を拒むための威圧ではなく、秩序を誇示するための構造。石の一つ一つが、積み上げられた年月と統治の重みを語っていた。荒廃の痕跡はどこにもなく、破壊も欠損も見当たらない。ここは滅びた城ではない。終わらせることを許されなかった城だった。


 砦の回廊を進むにつれ、床石に微かな光が灯る。夢界の欠片が反応している。淡い光は進む方向を示すというより、すでに定められた経路をなぞらせているようだった。選択の余地はなく、ただ導かれている感覚だけが残る。


 やがて辿り着いた中央塔。その扉は閉ざされていなかった。開いているというより、閉じるという選択を忘れたような在り方だった。扉の向こうに広がる空間は、玉座の間に似ていながら、どこか異質だった。


 玉座はある。しかし座る者はいない。代わりに、空間そのものが王の役割を担っているかのようだった。壁には無数の紋章が浮かび、消え、また現れる。それらは国名でも血統でもなく、決断の痕跡だった。勝利も敗北も、等価に刻まれている。


 床に近づいた瞬間、視界が歪む。過去の情景が重なり合うように流れ込んでくる。戴冠の日。戦を命じた夜。処刑の署名。救えなかった民の記録。いずれも感情を伴わず、ただ事実として並べられていた。


 この砦は記憶を誇る場所ではない。判断の総量を保存するための構造体だと理解する。皇帝とは英雄ではなく、選び続けた存在だったのだ。


 玉座の背後で、ひときわ強い光が灯った。真の間への通路が開かれている。そこへ進むと、空間は急に狭まり、静謐さが増す。壁も天井もなく、ただ光の層だけが上下を区切っている。


 中央に浮かぶのは、王冠でも剣でもない。一本の書だった。ページはめくられず、閉じたまま脈動している。その表紙に刻まれているのは、国名でも名でもない。「継承」という概念そのものだった。


 書に触れた瞬間、砦全体が震えた。拒絶ではない。確認だ。耐えられるかどうかを量る振動。


 次の瞬間、ただ一言だけが空間に響いた。


「統べる覚悟は、すべてを記す覚悟と等しい」


 声が消えると同時に、書は光へとほどけた。文字は形を失い、記憶として流れ込んでくる。皇帝が下した最後の決断。国を救うために、個人を切り捨てた夜。その選択を正当化しなかった理由。悔恨を抱いたまま王であり続けた時間。


 理解ではなく、受容が求められていた。善悪の判断を超え、選択の重さだけを引き受ける試練。砦が静かに応じる。壁に刻まれていた紋章が一つずつ消え、代わりに新しい紋様が浮かび上がる。


 玉座が形を変える。権威の象徴ではなく、記録台へと変質していく。そこに刻まれるのは、過去ではない。これから先の選択だ。


 皇帝の砦は完成していなかった。次代を迎え入れることで、ようやく役割を果たす場所だったのだ。


 砦の空気がゆっくりと動き始める。凍結していた時間が解かれ、外界との境界が溶けていく。夢界の欠片は静かに光を収め、新たな性質を帯びていた。力ではなく、統治の資格を示す印へと変わった。


 砦はもう過去を映さない。これから刻まれる決断だけを待つ場所となる。


 皇帝の砦は主を得たのではない。

 選び続ける存在を、正式に受け入れただけだった。




---



◆「王」ルート ― 厳正で勇敢な道



 砦の最奥、「真の間」の中央に据えられた石座へ近づくと、空気が一段と引き締まった。

 壁に刻まれた歴代の皇帝の紋章が、静かに光を宿す。

 それは承認ではなく、測定だった。


 玉座は語らない。

 代わりに、過去の戦と決断の重みが空間そのものとなって立ちはだかる。

 退路はなく、曖昧な答えも許されない。


 一歩踏み出すごとに、選ばなかった可能性が背後で崩れ落ちていく。

 守るべきもののために切り捨てる覚悟。

 命令を下す責任。

 恐れを抱えたまま前へ進む胆力。


 それらを引き受けた者だけが、玉座の前に立てる。

 剣のようにまっすぐで、折れにくく、そして冷たい道。

 だがその先には、揺るがぬ統治の力が確かに存在していた。


 この道を選んだ瞬間、砦は「城」へと姿を変える。

 支配ではなく、秩序を背負う者の居場所として。



---



◆「玉」ルート ― 優しく柔和な道



 同じ「真の間」にありながら、玉座の裏手には小さな回廊が続いていた。

 目立たず、飾りもない。

 だが床には無数の細かな文様が刻まれ、点と点が複雑に連なっている。


 進むほどに、砦が抱えてきた無数の声が浮かび上がる。

 記録されなかった選択。

 救われなかった者たちの願い。

 王の決断の影で、静かに支え続けた存在。


 この道では、一つひとつ拾い上げなければならない。

 癒し、整え、結び直す。

 時間がかかり、やるべきことは多い。

 だがその積み重ねが、砦の歪みを少しずつ解いていく。


 最奥にあるのは玉座ではなく、淡く光る「核」。

 触れた瞬間、砦全体が柔らかな光に包まれる。

 支配する城ではなく、寄り添う宮殿として。


 この道は静かで、成果も目立たない。

 それでも、確実に世界を長く保つ力が宿っていた。



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