表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルド奇譚:迷宮の祠と真名の石  作者: VIKASH
第五の試練

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/120

CC 《夢影を実体化させる》

◆CCルート《夢影を実体化させる》



 深層の静けさは、眠りそのものの形をしていた。空間はゆるやかに揺らぎ、どこにも属さない白い霧がたえず立ち昇っている。そこに漂う影たちは、輪郭を得ることのないまま、感情だけをにじませて揺れていた。


 エルドは胸元に触れ、温かな脈動を確かめた。掌には「夢界の欠片」が淡い蒼光を湛えている。その光は、周囲の夢影を静かに引き寄せはじめた。影たちはためらうように揺れ、やがて一つが選ばれたかのように前へ滑り出る。


 それは、他の影よりも薄く、軽く、かすかな風にすら形を保てないほど脆い存在だった。それでも、光に触れた瞬間、影の内側に筋が走り、輪郭がゆっくりと浮かび上がる。


 白い布が天から垂れ下がるように広がり、ゆるやかに波打ちながら形を整える。上半身は中性的で、顔だけはなかった。そこには何もなく、空虚だけが静かに横たわっている。下半身は布となって揺らぎ、一反木綿のように風もないのに舞い上がり、漂う。手の先と、布の先端は黒く染まり、夢の境界そのものが滲み出しているかのようだった。


 やがて、影の胸の奥から、かすれた機械音のような振動が生じた。


――ふっ……ふっ……


 音の正体は声とも呼べないほど無機質で、温度を持たない。しかし、その響きには微細な感情のような粒子が含まれていた。まるで、生まれたばかりの意志が、世界に触れる方法を探しているかのようだった。


 光が夢界の欠片から弧を描いて影へ注ぎ込まれるたび、白い布の縁が揺れ、黒い染みが脈打つように震える。境界が現実へと馴染んでいく。存在が重たくなり、影が足元の大地にわずかに沈む。


 その動きは、生まれるというよりも、夢がこちら側へ滲み出す過程のようだった。輪郭の固まるたび、影は微かに頭を傾け、目のない顔でエルドを「見る」。


 霧の深層が震えた。影の実体化に呼応するように、周囲の夢影がざわめき、色や形のない感情が渦を巻く。一つの存在がこの世界を越えようとする瞬間、夢界全体がそれを観測しているかのようだった。


――ふふ……ふっ……


 柔らかな布がふわりと揺れ、影はゆっくりと前へ進んだ。足はなく、歩いているのか浮いているのか判断できない。ただ、揺れる白布だけが進行を示していた。


 エルドの周囲の景色が変わる。夢の深層は静かに亀裂を生じ、光の筋が入り込み、現実側の気配が流れ込む。影の存在が、夢の法則をわずかに書き換えていた。


 黒く染まった指先が空を切るように広がり、境界が触れた部分に小さな歪みが生じた。そこには、現実と夢の境界面が折り重なるように揺らめき、淡い光の筋が道となって立ち上がった。


 影はその道の先を示すように、音のない動きで顔を持たぬ頭を向けた。


――フッ……フ……


 それは呼吸にも似た、あるいは問うような、無機質な響きだった。


 夢界の欠片が最後の光を放ち、影の胸元で溶けるように吸い込まれた。その光が、影の白布と黒い縁を柔らかく照らす。影は完全な実体を得たわけではない。それでも、世界に触れるだけの「重さ」と「存在感」を確かに宿していた。


 霧が静かに晴れ、境界の道が一筋、前へ伸びる。


 影はゆっくりとエルドの隣に並び、白布をひらめかせながら進む準備を整えた。


 夢から生まれた存在は、まだ何者でもなく、どこへ向かうのかも定まっていない。

 しかし――その姿は確かに、彼の旅路に新たな形をもたらそうとしていた。


――ふっ……ふふ……


 無機質なその響きだけが、深層の静寂に淡く残った。




 ---



◆「和」ルート


 夢影の白い身体が、静かな揺らめきとともに固まり、漆黒の鎧を纏った武者へと変化する。

 顔の部分だけは白く塗りつぶされた面のようで、表情は一切読めない。

 手には長い刀。鞘から半ば抜き放たれた刃が、夢の世界の光を鈍く反射している。

 足元は一反木綿の名残がひらりと揺れ、現実と虚の境界が滲んだまま立っている。



 ---



◆「洋」ルート


 夢影の輪郭が波紋のように広がり、銀色の板金鎧を纏う騎士の形に収束する。

 兜の面には何も刻まれず、ただ真っ白な空白が広がっている。

 右手には剣、左手には盾。いずれも黒い縁取りが施され、境界の狭間を象徴している。

 足元に残る布の影が風もないのに揺れ、夢の深層との繋がりを示している。



---



◆「中」ルート


 夢影の姿がほどけるように形を変え、**上半身裸の武術家**へと変貌する。

 筋肉のラインは確かに人間のものだが、顔だけは不自然なほど真白で、表情も年齢も不明。

 武器は肉体そのもの。拳の先と布の端が黒く染まり、境界を殴り抜く力を象徴している。

 腰から下には夢影の布の名残が薄く揺れ、現実の重力とは異なる動きを見せている。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ