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エルド奇譚:迷宮の祠と真名の石  作者: VIKASH
第五の試練

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CA 《夢痕を掬い上げる》

◆CAルート《夢痕を掬い上げる》



《アナザーエンド:夢界偏位》



 夢界に足を踏み入れた瞬間、重力の概念は薄紙のように剥がれ落ちた。上下の区別は残っているはずなのに、足元の感触は確かではなく、大地は水面のようにわずかに揺れ続けている。空間そのものが呼吸しているかのように、伸び縮みを繰り返していた。


 視界に満ちているのは、光とも霧ともつかない淡い粒子。それらは一定の形を持たず、降り注ぐ雨粒のように漂い、触れれば溶ける。夢の残滓。誰かが見て、忘れ、置き去りにした眠りの痕跡だった。


 掌に宿る夢界の欠片が、静かに反応を示した。蒼い光が脈打ち、周囲の粒子を引き寄せ始める。流れは緩やかで、しかし確実だった。散らばっていた夢の残香が一箇所へ集まり、やがて形を持ちはじめる。


 掬い上げられた夢痕は、記憶の断片でありながら、完全な過去ではなかった。そこに映るのは、かつて選ばれなかった未来、踏み出さなかった一歩、叶えられなかったはずの可能性。現実と異なるはずなのに、不思議と懐かしさが胸の奥に滲む。


 夢痕に触れた瞬間、意識が引き込まれる。そこには、別の分岐を辿った世界が広がっていた。崩れなかった道、壊れなかった関係、手放さずに済んだ何か。現実では成立しなかったはずの連なりが、静かに、だが確かな重みを持って存在している。


 夢界はそれを肯定も否定もしない。ただ示すだけだった。選ばなかった結果が、必ずしも誤りではなかったことを。失われた可能性が、完全に消滅したわけではないことを。


 夢痕はやがて淡く揺らぎ始めた。長く留めておくことはできない。掬い上げた夢は、現実に持ち帰れる形へと変換されていく必要があった。夢界の欠片が再び輝きを増し、夢痕の輪郭を内側から削り取っていく。


 削り落とされた光は、予兆へと姿を変えた。未来に起こり得る出来事の“傾き”だけが残される。確定ではないが、方向性を持った兆し。現実に戻ったあと、些細な選択や偶然に作用し、結果をわずかに変える力。


 その瞬間、夢界の空間が静止した。漂っていた粒子が止まり、揺れていた地形が凍りつく。夢界そのものが、介入の限界を示しているかのようだった。これ以上踏み込めば、予兆は歪み、現実との境界が溶ける。


 夢痕は完全に形を失い、掌には残らなかった。ただ、胸の内にひとつの確信だけが沈殿している。未来は固定されていない。過去もまた、完全には閉じていない。夢は現実の裏側にあり続け、微細な干渉を許している。


 夢界の欠片が静かに光を落とした。役目を終えたかのように、その輝きは穏やかで、もはや強い主張を持たない。だが、完全に消えたわけではなかった。欠片は予兆と同調し、新たな性質を帯びている。


 夢に抗う力ではなく、夢を理解し、未来へ滲ませる力。選択を覆すのではなく、選択の結果に幅を与える力。


 やがて、夢界の風景がゆっくりと後退しはじめる。境界が開き、現実側の輪郭が戻ってくる。完全に覚醒する前の、曖昧な狭間。その中で、予兆は深く定着していった。


 現実へ戻ったとき、世界は何も変わっていないように見えるだろう。だが、ほんのわずかな違和感が生まれる。偶然の一致。回避されるはずだった失敗。出会うはずのなかった存在。


 夢痕は消えた。しかし、その影響だけが残った。


 選ばれなかった未来は、救われなかったわけではない。

 ただ、別の形で、静かに世界へ滲み出しただけだった。






















《アナザーエンド》

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