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エルド奇譚:迷宮の祠と真名の石  作者: VIKASH
第五の試練

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52/114

BE 《虚声の道》

◆ BE ― 《虚声のエコーライン



――“祠が語る真実とも虚偽ともつかぬ声”を受け取るルート


 灰の道を抜けた先に広がる通路は、他の分岐とは明らかに異質だった。

 幅は狭く、天井は低く、両側の壁は濃い霧が薄い膜のようにまとわりついている。霧は触れれば消えるように揺れ、足元の石は微かに軋みを発していた。道の奥へ向かうほど空気が澄むのではなく、逆に密度が増していく。呼吸のたび、未知の記憶を吸い込んでいるような錯覚があった。


 前へ進むと、静寂を破るように、誰の声とも言えない囁きが通路中に広がった。


「進んではならない」


 その声は背後から響いたはずなのに、振り返っても何もいない。

 だが、確かに耳に届いた。直線の道でありながら、多方向から響いたような錯覚が皮膚を撫でる。祠の気配が壁に染み込み、音となって漏れ出しているのが分かる。


 さらに進むと、今度は足元が震えた。わずかな揺れに合わせて霧が波打ち、通路の両側から光の粒が浮かび上がる。それらは一瞬、人影のように形を取ろうとして消えた。祠が蓄えてきた膨大な記憶の断片が、音になる前段階として揺らいでいるのだ。


「引き返せ」


 灰の道で失われた宝玉の記憶が、ここでは声として再構築されようとしていた。

 しかし、それはあくまで“祠の視点”による解釈だ。真実とは限らない。むしろ虚構が混じっていることを、空気の濁りが告げている。


 道は先へ進むにつれ細くなり、空気はますます重くなる。霧の層は高く積み上がり、まるで見えない天井が迫ってくるようだった。光は淡く、足跡さえ溶けて消えるほど不確かだ。


 耳元ですぐに囁かれたような近さで、また声が降りてきた。


「自分を信じろ」


 祠が言う“自分”とは何を指しているのか。

 過去か、選択か、あるいは祠が望む未来の形か。

 その曖昧さこそ、この道の本質だった。


 その一言に呼応するように、通路の壁がほんのわずかに明滅した。

 霧の向こうに、何かのシルエットが浮かぶ。

 だが、それはすぐに消えた。

 祠の記憶の残響が像となる一歩手前で途切れていく。


 道の先には開けた場所があった。広間ほどの大きさではないが、通路に比べれば大きく、中央には浅い窪地がある。窪地に集まった霧はまるで水のように溜まり、波紋を広げていた。踏み出すたび、その波紋は色を変え、赤から青、青から白へと移ろっていく。


 その中心で、また声が降った。


「何も望むな」


 強い命令にも似た響きだった。

 祠が持つ意志が、ここでは露骨に表れている。

 何かを得ようとする者、記憶を求める者、未来に手を伸ばす者――

 そのすべてを拒絶するかのようだった。


 窪地の霧が渦を巻き、それがひとつの“道”の形に変わる。

 祠が語り、祠が選ばせ、祠が試すために用意した通路。

 だが、真実はどこにも書かれていない。


 広間の奥には三つの光の層が揺れている。

 薄い影のような道が三本、重なる気配だけを残している。

 どれが正しいのか、どれが祠が望むものか、どれが虚構の罠なのか――

 判断できなければこの広間は閉じてしまうだろう。


 祠の声が最後にもう一度響いた。


「進んではならない」


 それは最初と同じ言葉でありながら、今は別の意味を帯びているように感じられた。

 止まれという忠告か、選べという誘導か、立ち止まる心を試すための虚構か。

 その判断を迫るかのように、風のない空間で霧だけが揺れている。


 エルドは歩みを止めることなく、渦の縁へと視線を向けた。

 祠のエコーは消え、広間には再び静寂が広がる。

 しかし、その静寂こそが祠の狙いだった。


 ここで選んだ道は、祠が求める正解でも祠が恐れる誤解でもない。

 どちらにせよ、この先で必ず何かが変わる。


 霧が揺れ、黒い影が三方向へ伸びた。

 それが「金」「銀」「銅」へと続く三本の影の道。

 エコーが語り続けた曖昧な真実と虚構の中で――

 祠は静かに、エルドの選択を待っていた。




---



『さあ゙、分岐をえらびたまゑ』



◆ 「金」ルート


《黄金だが錆びた道》

輝いているようで、触れれば粉のように崩れる。

かつての栄光だけが残り、中身は朽ちている道。



---



◆「銀」ルート


《白銀だが曇った道》

光るがすぐに白く錆び、冷たさだけが強い。

美しいようで、影が曖昧に揺れる静かな道。



---



◆ 「銅」ルート


《青銅の錆びた戦道》

青い錆の中に、古い盾と剣が散らばる。

戦いの残気が残り、最も荒れているが重みのある道。



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