BE 《虚声の道》
◆ BE ― 《虚声の道》
――“祠が語る真実とも虚偽ともつかぬ声”を受け取るルート
灰の道を抜けた先に広がる通路は、他の分岐とは明らかに異質だった。
幅は狭く、天井は低く、両側の壁は濃い霧が薄い膜のようにまとわりついている。霧は触れれば消えるように揺れ、足元の石は微かに軋みを発していた。道の奥へ向かうほど空気が澄むのではなく、逆に密度が増していく。呼吸のたび、未知の記憶を吸い込んでいるような錯覚があった。
前へ進むと、静寂を破るように、誰の声とも言えない囁きが通路中に広がった。
「進んではならない」
その声は背後から響いたはずなのに、振り返っても何もいない。
だが、確かに耳に届いた。直線の道でありながら、多方向から響いたような錯覚が皮膚を撫でる。祠の気配が壁に染み込み、音となって漏れ出しているのが分かる。
さらに進むと、今度は足元が震えた。わずかな揺れに合わせて霧が波打ち、通路の両側から光の粒が浮かび上がる。それらは一瞬、人影のように形を取ろうとして消えた。祠が蓄えてきた膨大な記憶の断片が、音になる前段階として揺らいでいるのだ。
「引き返せ」
灰の道で失われた宝玉の記憶が、ここでは声として再構築されようとしていた。
しかし、それはあくまで“祠の視点”による解釈だ。真実とは限らない。むしろ虚構が混じっていることを、空気の濁りが告げている。
道は先へ進むにつれ細くなり、空気はますます重くなる。霧の層は高く積み上がり、まるで見えない天井が迫ってくるようだった。光は淡く、足跡さえ溶けて消えるほど不確かだ。
耳元ですぐに囁かれたような近さで、また声が降りてきた。
「自分を信じろ」
祠が言う“自分”とは何を指しているのか。
過去か、選択か、あるいは祠が望む未来の形か。
その曖昧さこそ、この道の本質だった。
その一言に呼応するように、通路の壁がほんのわずかに明滅した。
霧の向こうに、何かのシルエットが浮かぶ。
だが、それはすぐに消えた。
祠の記憶の残響が像となる一歩手前で途切れていく。
道の先には開けた場所があった。広間ほどの大きさではないが、通路に比べれば大きく、中央には浅い窪地がある。窪地に集まった霧はまるで水のように溜まり、波紋を広げていた。踏み出すたび、その波紋は色を変え、赤から青、青から白へと移ろっていく。
その中心で、また声が降った。
「何も望むな」
強い命令にも似た響きだった。
祠が持つ意志が、ここでは露骨に表れている。
何かを得ようとする者、記憶を求める者、未来に手を伸ばす者――
そのすべてを拒絶するかのようだった。
窪地の霧が渦を巻き、それがひとつの“道”の形に変わる。
祠が語り、祠が選ばせ、祠が試すために用意した通路。
だが、真実はどこにも書かれていない。
広間の奥には三つの光の層が揺れている。
薄い影のような道が三本、重なる気配だけを残している。
どれが正しいのか、どれが祠が望むものか、どれが虚構の罠なのか――
判断できなければこの広間は閉じてしまうだろう。
祠の声が最後にもう一度響いた。
「進んではならない」
それは最初と同じ言葉でありながら、今は別の意味を帯びているように感じられた。
止まれという忠告か、選べという誘導か、立ち止まる心を試すための虚構か。
その判断を迫るかのように、風のない空間で霧だけが揺れている。
エルドは歩みを止めることなく、渦の縁へと視線を向けた。
祠のエコーは消え、広間には再び静寂が広がる。
しかし、その静寂こそが祠の狙いだった。
ここで選んだ道は、祠が求める正解でも祠が恐れる誤解でもない。
どちらにせよ、この先で必ず何かが変わる。
霧が揺れ、黒い影が三方向へ伸びた。
それが「金」「銀」「銅」へと続く三本の影の道。
エコーが語り続けた曖昧な真実と虚構の中で――
祠は静かに、エルドの選択を待っていた。
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『さあ゙、分岐をえらびたまゑ』
◆ 「金」ルート
《黄金だが錆びた道》
輝いているようで、触れれば粉のように崩れる。
かつての栄光だけが残り、中身は朽ちている道。
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◆「銀」ルート
《白銀だが曇った道》
光るがすぐに白く錆び、冷たさだけが強い。
美しいようで、影が曖昧に揺れる静かな道。
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◆ 「銅」ルート
《青銅の錆びた戦道》
青い錆の中に、古い盾と剣が散らばる。
戦いの残気が残り、最も荒れているが重みのある道。




