表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルド奇譚:迷宮の祠と真名の石  作者: VIKASH
第五の試練

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/111

AF 《審判の継承者 ― “未来を量る手”》

◆ AF《審判の継承者 ― “未来を量る手”》



 金色の風が静まり、〈審判の衡珠〉の脈動が深く沈むと、周囲の影がわずかに反転した。

 まるで空間そのものが裏返されるような感覚のあと、光の大樹の根元に新たな階層が現れた。

 その領域は、祖霊の審判を受けるための“間”ではなく――審判そのものを司る者が立つべき場所だった。


 地面は鏡面のように滑らかで、踏みしめた足裏が淡く波紋を広げる。

 頭上には天蓋もなく、空は限りなく高い。

 だが、そこには風がない。

 ただ、動かぬ静寂だけが広がる。


 〈審判の衡珠〉が胸元で震えた。

 白珠と黒珠が重なるたび、世界にうっすらと線が走る。

 それは見えないはずの境界線――“未来の形”を量るための目盛り。


 足元に、ひとつの影が現れた。

 長く引き伸ばされたその輪郭は、かつて血族に連なる者でありながら、道を大きく踏み外した存在。

 影は苦悶とも怒りともつかない歪みを見せ、まるで世界に忘れられた者が最後に残す痕跡のようだった。


 〈審判の衡珠〉がわずかに明滅する。

 影は一歩、エルドへと近寄る。

 それは襲う気配ではなく、訴える気配だった。


 影の中に、断片的な記憶が映る。

 大義を掲げた者。

 誤解された者。

 力を拒めず、暴走してしまった者。

 正しさを求めたがゆえに歪んでしまった者。


 どれも、屍ではなく、生きられなかった“未来”の破片。


 影は審判を必要としていた。

 罰ではなく、肯定でもなく――「どこへ行けばいいのか」を決める存在を。


 その瞬間、衡珠の奥底から低い響きが流れ出た。

 白珠は静謐を宿し、黒珠は真実を映す。

 その二つが揺れ合う度に、影の未来が無数へ分岐し、淡い像となって散らばる。

 本来であれば祖霊たちが行ってきた審判。

 だが今、その権限はエルドへ移っていた。


 世界の中心に立つ者は、選ばれたのではない。

 “拒絶の中を進む姿勢”が、選ぶ側へと押し上げたのだった。


 影が完全に形を保てなくなったとき、

 エルドはわずかに頭を垂れ、唯一の言葉を落とした。


 「道を示す」


 その声は響きではなく、指針だった。


 直後、衡珠が眩い光を放つ。

 白珠は影の中の「生きたい未来」を照らし、

 黒珠は「戻れない道」を断ち切る。


 光と闇の均衡は乱れず、調和しながら一つの導線を描いた。


 影は苦悶ではなく安堵のような震えを見せ、やがて淡い粒となって空へ溶けていった。

 そこに苦しみはなく、ただ“次へ進む”という静かな意思だけがあった。


 やがて、周囲に数多の影が姿を現し始める。

 かつて封じられた血族の失敗、後悔、逸脱した意志――

 本来なら永遠に閉ざされた場所に留まるべき存在たち。


 だが今、この領域は変わった。


 〈審判の継承者〉が立つことで、

 “過去を量り、未来へ返す”という新たな法が生まれた。


 影たちは順に歩み寄り、衡珠はひとつずつ脈を変える。

 ある影には再生の道を、

 ある影には消えずに留まる役目を、

 ある影には別の場所で新たな輪廻を。


 そしてそのすべての決定は、エルドの揺るぎない意思と、衡珠の静かな判断が共同で形づくる。


 この力は暴力ではない。

 救世でもない。

 ただ、未来を量るだけの力。

 けれど、その重みはどの武具よりも鋭く、どの魔術よりも深い。


 影の群れがすべて流れ去ったとき、空はわずかに色を帯びた。

 金色ではなく、白と黒が滲む淡い灰の光。

 均衡を象徴する光だった。


 〈審判の衡珠〉は静かに脈動し続ける。

 これは選ばれた者の証ではなく、

 歩んだ意思の証明。


 エルドはゆっくりと境界の地を後にした。


 この先、道はかつてよりも遥かに重く、

 そして、遥かに確かなものへと変化していく。


 未来を量る者は、未来に責任を負う者でもあった。


 それでも歩みは止まらない。

 衡珠は淡く震え、次の審判の予兆を伝える。


 世界はまだ静かだが――

 その均衡を揺らす影は、必ず現れる。


 審判の継承者が立つべき場所は、もう決まっていた。



◆ 五つの分岐


● №8:蒼輝の巡輪


蒼光の円が広がり、過去の選択がすべて巡り直される道。

繰り返しではなく、再編のための循環が生まれる。


● №9:深渦の観界


渦の奥底で、世界を“俯瞰された形”として理解する道。

視点が拡張され、自身の経験の外側にある層へ触れる。


● №10:無声の継環


音も衝動もすべて沈む静寂の道。

沈黙を通して、隠された力が輪郭を得ていく。


● №11:断章の黎境


途切れた物語の続きへ足を踏み入れる道。

未完の章が編まれ、新たな因果が生まれる。


● №12:蒼弦の律界


世界と歩調を合わせ、律動そのものを操る道。

結末は固定されず、流れそのものと調和していく。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ