AD - ★黒珠ルート《断罪の顕現―黒珠の脈動》
◆ AD ★黒珠ルート《断罪の顕現―黒珠の脈動》
審判の儀を終えてから、〈審判の衡珠〉は胸元で静かな振動を続けていた。温かな光を宿していた白珠に対し、黒珠は沈黙を守り続けていたが、その沈黙には“眠り”とは異なる気配があった。止まっているのではない。すでに目覚めていて、ただ時を見定めているような静謐さがあった。
金色の風が揺らぎ、辺りの色がゆっくりと反転していく。白く澄んでいた視界は徐々に煤のような黒へと染まり、世界は重たく沈むように暗転していった。現れたのは、影が濃縮されたような小空間。光は弱く、音すらも存在を忘れたかのように沈黙する。
その中心に衡珠が浮かび上がる。白珠は淡く輝いていたが、黒珠だけが脈動し、まるで心臓のように規則正しく闇を深めていた。その拍動は静かだが、圧倒的だった。拒んだり、試したりするのではない。ただ、正面から向き合えと告げるような揺るぎなさがあった。
黒珠がひときわ強く脈動する。直後、足元から冷たい衝撃が駆け上がった。骨の芯へ響くほどの強い痛みに似た感覚だったが、恐怖ではなかった。むしろ迷いを削り取るような鋭い認識の感覚があった。
黒珠の周囲に、無数の残滓が浮かび上がる。彼らは血族の影ではない。祖霊に選ばれなかった者、進むことを辞めた者、判断を後回しにして道を閉ざした者――“決断を放棄した影”たちだった。彼らは何かを求めるでもなく、ただ揺らいでいた。選ぶことができず、選ばれることもなく、形を持たぬまま漂い続ける存在。
黒珠はその影たちを映し出しながら、ゆっくりと軌道を描き、エルドの胸元に近づいていく。影たちが揺らぎ、黒珠に吸い込まれるように消えていくたび、胸に重い圧が走る。決断の重みそのものを押しつけるような感覚だった。
白珠が心を照らすものなら、黒珠は心を抉るものだった。
過去の選択が誤りだった瞬間。守れなかった場面。選びきれなかった岐路。すべてが黒い水のように流れ込み、胸の奥底で音もなく沈殿していく。
逃げようとすれば沈み、立ち止まれば圧に押し潰される。
ただ一歩、立とうとする意思だけが、この空間で唯一の光だった。
黒珠が完全に胸元へと収まった瞬間、世界は一度だけ大きく軋んだ。空間そのものが悲鳴を上げたかのように揺れ、その歪みの中心で黒珠が静かに輝き始めた。光ではない。闇が光を帯びているような逆説の輝きだった。
その輝きは、空間の影を次々と断ち割っていく。揺らいでいた影たちが、静かに形を失い、落ち着いた闇へと還っていった。それは滅びではなく、決断による解放だった。
黒珠が最終の脈動を見せたとき、胸元に深い重みが宿る。
白珠は調和をもたらしたが、黒珠は重さそのものだった。
責任、後悔、選択、断ち切り――それらすべてを抱えた“断罪の力”。
そして、黒珠の周囲に黒い鎖が現れる。柔らかい光を放った白珠とは対照的に、黒珠は武具へと変化する際に鋭い輪郭を帯びていった。鎖は音を立てずに形を変え、黒い刃のついた輪へと姿を整える。それは武器でありながら、裁きの象徴のようだった。
――黒輪
触れれば影を断ち、意志が揺らげば自身を縛る。
決断を迫り、迷いを排するための武具。
その瞬間、黒輪が鈍い音を発した。
「進む理由を示せ」
それだけの言葉が、空間に重く沈むように響いた。
その一語だけで、空気が震えた。力を求めるのではない。未来を掴むための覚悟を問う声だった。言葉は続かず、黒輪は静かに沈黙に戻った。
世界が反転し、金色の風が視界を満たしていく。胸元で黒珠が脈打つたび、重さが体の中心へと吸い込まれていく。その重さは苦痛ではなく、選んだ道の証だった。
エルドは歩き出した。
白珠が光を整える力だとすれば、黒珠は影を断ち切る力。
どちらが正しいのでも、どちらが優れているのでもない。
ただ、進むために必要な覚悟が違うだけだった。
黒輪の刃は音を立てず、胸元で静かに揺れる。
その重さと共に歩く未来は、白珠とはまったく別の形となる。
影を断つ道。
迷いを排する道。
責任を抱えながら、それでも進むための道。
黒珠は、導くのではない。
決断の果てにある未来を、選び取らせるための力だった。
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◆ AD-★黒珠ルート《衡珠の覚醒:黒の意志》
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金色の風が静まり、世界は薄く暗い色を帯び始めた。〈審判の衡珠〉を胸元に収めたまま歩を進めると、足元の影がわずかに伸び、世界の輪郭を侵食していくように揺れた。光ではなく“闇の脈動”が道筋を示しているのが分かった。
やがて周囲の景色は黒と灰の世界へ変わった。ここは継承者にのみ開かれる深層――衡珠の内側に眠る、二つ目の意志の領域。
空気は重く、どこか乾いた冷気が肌を撫でる。この空間には光の粒ひとつなく、かわりに影の糸が漂い、意思を持つ生物のようにゆっくり形を変えていた。その中心で、黒く濁った珠が微かに震えていた。
衡珠の片割れ――黒珠。
白珠が静かに光を宿していたのに対し、黒珠は光を吸い込み、まるで世界の“罪”と“歪み”の残滓を凝縮したような重さを持っていた。
エルドが一歩近づくと、黒珠の内部で渦巻く影が揺れた。そこには意思があった。強靭で、誤魔化しを許さず、曖昧さを切り捨てるような、鋭利な意志。
影は広がり、足元から深い闇が立ち上がる。
その闇に触れた瞬間、膨大な感情が流れ込んできた。怒りでも恨みでもない。ただ、形を失った無数の“決断”の記憶だった。切り捨てる選択、断ち切る選択、逃さぬ選択――誰かが積み上げ、そして隠してきた重い決断の数々。
胸が締めつけられる。呼吸すら奪われるほどの圧。白珠とは異なる種類の“拒絶”がそこにあった。
影の中心に、一つの形が浮かび上がった。人影に似てはいるが、生前の気配は何もない。ただ、黒珠そのものの意志が形を成した存在だった。
その影は、選ばれるために立っているのではない。
“選ぶために”立っていた。
影の目映いほど鋭い気配がエルドの心を射抜く。逃げ場はなく、誤魔化しも通用しない。ここで試されるのは、強さではなく――世界を切り捨てる覚悟だった。
影の腕がゆっくりと上がり、黒珠が大きく脈動した。
闇が押し寄せる。白珠の時とは違う。これは拒絶ではなく、“決断の強制”だった。選ぶか、選ばないか。進むか、留まるか。その二択だけを突きつけ、曖昧を捨てさせる。
全身が締めあげられるような圧迫の中で、エルドは一歩前に出た。その瞬間、圧はさらに強くなる。心の奥底に潜む迷いが暴かれ、影が形となって目の前に現れた。
無数の「分岐しなかった未来」が影となり、足元に伸びる。選ばれなかった選択肢の残滓。迷った瞬間に捨ててきた時間。そのすべてが、黒珠にとっては“罪”であり“刃”だった。
黒珠は問うている。
迷いを断ち切る覚悟があるか、と。
エルドは静かに息を吸う。影の重圧に押し潰されそうになりながらも、足を引かず、視線を影へと向けた。
そして、ただ一度だけ声を発した。
「退けない道があるなら、進むだけだ」
次の瞬間、黒珠の脈動が激しく波打ち、世界がひっくり返るほどの衝撃が走った。
圧は一気に消え、影が静まる。無数の迷いの影が霧のように薄れ、エルドの足元へと吸い込まれていった。黒珠の意志が肯定したのだ。
影の人影が消えると、黒珠は強く光を吸い込み、暗黒とも呼べる深い光を放ち始めた。その光は結晶の外側へ形を伸ばし、鎖を巻き、やがて一本の武具へ姿を変えた。
黒珠の選んだ形態――
漆黒の輪刃。
刃の外縁には影の紋が揺れ、切り裂くのではなく“未来を断つ”力を宿していた。
これは破壊の武器ではない。
選択を強制する武具であり、迷いを敵ごと断ち切る象徴。
エルドが握った瞬間、黒珠の脈動が鼓動と同調した。白珠とは正反対の波長。それは静寂ではなく、鋭い決意の拍動だった。
影が完全に晴れた時、世界は再び金色の風へ戻った。
だが、その胸元には深い闇を宿す決断の珠が脈動し、手には輪刃が静かに輝いていた。
黒珠は語らずとも告げていた。
進む者の前にある“未来の枝”を、必要なら断ち切れ――と。
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◆ 黒輪の分岐(黒珠覚醒後の三分岐)
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■ DA《黒輪:輪廻の断章》
黒珠の力が過去の“断ち切られた未来”と共鳴し、
エルドは自身の影に潜む“別の自分”と対面するルート。
選ぶのは自分の欠片ではなく、“何を捨ててきたか”その本質。
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■ DB《黒輪:逆輪の衝動》
黒珠が持つ“選択の強制”が暴走し、
エルドの決断が周囲の運命を強引に変えていくルート。
制御を取り戻せるかどうかで物語が大きく分岐。
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■ DC《黒輪:輪道の執行者》
黒珠の意志を完全に受け入れ、
“迷いを許さない道”を歩む覚悟を得る上位ルート。
輪刃はさらに進化し、他者の未来網を切断できる“道具”へ変化する。




