AD - ☆白珠ルート《衡珠の覚醒―白珠の譜》
◆ AD - ☆白珠ルート《衡珠の覚醒―白珠の譜》
金色の風が静かに収まり、光の大樹の根元へと戻ったとき、エルドの胸元で揺れる〈審判の衡珠〉が微かに熱を帯びた。蒼白の世界で受けた審判は終わったはずなのに、その脈動はむしろ強くなっているように感じられる。
衡珠は小さく揺れ、内側から淡く白い光を漏らした。
その光は、焚き火のように温かく、それでいて星明かりのように冷静だった。二つの感触が混ざり、エルドは思わず胸に手を添える。
足もとに、静かに光の紋が浮かび上がる。
まるで衡珠が言葉のない呼び声を発しているかのようだった。
――白珠の意志へ触れよ。
誰にも聞こえない声が、風の向こうで囁きかける。
エルドはその導きに従い、光の紋へ一歩踏み出した。
視界が反転した。
気づけば、そこは白一色の空間だった。色という概念すら希薄で、輪郭も音も霞む。だが不思議と恐怖はなく、どこか懐かしさすら感じさせる静寂が広がっている。
空間の中央に、衡珠の“片割れ”だけが浮かんでいた。
黒珠の気配はなく、白珠だけが小さく揺れていた。
近づくと、白珠の内部に細い光の糸が揺れ、そのたびに柔らかな波紋が空間へ広がる。
波紋に触れても痛みはない。むしろ、心の奥に沈んだ不安や迷いを静かに和らげていくようだった。
エルドは理解した。
――これは「調和と導き」の力。
ただ攻撃する力ではない。
ただ守る力でもない。
異なるものと異なるものを繋ぎ、対立の先に新たな道を生み出す、ひとつの“意思”。
その瞬間、白珠からひとつの影が現れた。
人影ではなく、光の欠片が寄り集まり、人の形に近い輪郭を成しているだけだった。声も名前もない。ただ、白珠の意思がその姿を借りているのだと直観した。
影はゆるやかに手を伸ばす。
触れるべきか迷う間もなく、エルドは受け止めた。
指先が光に触れた瞬間、白珠の記憶が流れ込んだ。
その光景は、遠い昔の何かだった。
血族の争い。誤解から生まれた敵意。
“審判”の力を持つ者たちが、互いの正義を否定し合い、世界を損なった過去。
その中心に、白珠は確かに存在していた。
争う両側を見つめ、泣きも笑いもせず、ただ静かに“調和”を求め続けた器。
誰かを裁くためではなく、誰かと誰かを繋ぎ直すために創られた力。
光の影は、静かに胸元へ触れた。
白珠がふたたび強く脈動し、エルドの心臓の鼓動と重なっていく。
次の瞬間、白珠が眩い光を放った。
その光は空間全体を震わせ、形を変え始めた。
珠は砕けることなく伸び、細長い輪となり、繋がり、やがて一本の“杖”の形を成した。
――〈白衡の導杖〉。
白珠に宿っていた調和の力を武具として顕現させた姿だった。
杖の先端には小さな光の球が浮かび、脈動は呼吸に合わせて静かに揺れている。
エルドは手を伸ばし、その杖を握る。
触れた瞬間、白珠の意志が柔らかく流れ込んだ。
刃ではなく、暴力でもない。
道を開き、迷いに光を差し、衝突の中に和解の芽を探す力。
それは、強いだけの力とは決して交わらない“別の強さ”だった。
白い空間がゆっくりと溶け始める。
視界が戻り、光の大樹の根元へ帰還する直前、白珠の意志がひとことだけ告げた。
――「歩む道を照らそう」
耳の奥に残ったその声は、やさしく、穏やかで、確かな強さを宿していた。
エルドは深く息を吸う。
胸元の杖が微かに光り、未来へ進むための方向を静かに示している。
争いの渦に巻き込まれる世界で、この力は何をもたらすのか。
導くべき相手は誰なのか。
そして、白と黒、どちらの意志が未来を形作るのか。
その答えは、これから歩む旅の中で明らかになるだろう。
エルドは〈白衡の導杖〉を手に、静かに歩き出した。
調和の光を胸に、争いの先を変えていくために。
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◆ 三つの分岐を選べ
● 朧 ―《揺曖の環を抜ける道》
白衡の導杖が淡く揺れ、光の大樹の根の奥に、薄い膜のような道が浮かび上がる。
朧の道は輪郭の定まらない層で構成され、触れるたびに形を変える。
曖昧な記憶、形にならなかった願い、選ばれなかった可能性が白い霧となって漂っていた。
歩けば歩くほど、景色は呼応するように揺らめき、心の奥に埋もれた不確かな輪郭が表面へ浮かび上がる。
迷いも葛藤も否定することなく、ありのまま受け入れながら進む道だった。
導杖の光は、曖昧な霧を無理に晴らすのではなく、揺れた形に寄り添うように脈打つ。
この道を選ぶことで、世界の“未確定”を受け止める術が育まれる。
定まらないものと共に歩む強さを得る――それが朧の分岐の本質だった。
● 暁 ―《萌芽の縁に立つ道》
白衡の導杖が明け方の光のように色を変え、前方に細長い裂け目が開いた。
そこから流れ出たのは、夜と朝の境界だけが持つ温度をまとった空気だった。
暗闇の余韻を残しながらも、新しい光が確実に世界を広げていく。
暁の道は、何かが生まれる瞬間だけを連ねたような層だった。
小さな芽吹きが空中に浮き、光の粒となって流れ、触れればわずかに未来の気配が揺れる。
過去の傷跡が消えるわけではない。しかし、その表面には必ず新しい色が差し込んでいた。
導杖を握る手に、微かな震えが伝わる。
それは恐れではなく、まだ知らない世界を開く鼓動だった。
暁の道を選ぶ者は、残された闇を抱えながらも、一歩先の始まりを照らしていく。
● 燈 ―《静火の導きに寄り添う道》
白衡の導杖の先端で灯がともり、柔らかな橙の光が辺りを包む。
それは火でありながら、熱ではなく“温度の記憶”だけを残す静火だった。
炎は揺らがず、ただまっすぐに前へ伸びる細い道を照らしていた。
燈の道は、外の世界よりもむしろ内側へ向かう層として広がる。
これまで積み重ねてきた経験、選んだ道、失われた道、すべてが薄い影となって寄り添ってくる。
導杖の光は、その影たちを否定するのでも、消し去るのでもなく、静かな光で輪郭を整えていく。
足を進めるほど、影は道の両側に並び、やがてゆっくりと後押しするように揺れた。
それは過去が鎖となって縛るのではなく、灯を支える燃料として温かく流れ込む感覚だった。
燈の道を選ぶ者は、内なる火を整え、世界ではなく“自己の歩み”を静かに照らし続ける。




