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エルド奇譚:迷宮の祠と真名の石  作者: VIKASH
第五の試練

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AD - ☆白珠ルート《衡珠の覚醒―白珠の譜》

◆ AD - ☆白珠ルート《衡珠の覚醒―白珠の譜》



 金色の風が静かに収まり、光の大樹の根元へと戻ったとき、エルドの胸元で揺れる〈審判の衡珠〉が微かに熱を帯びた。蒼白の世界で受けた審判は終わったはずなのに、その脈動はむしろ強くなっているように感じられる。


 衡珠は小さく揺れ、内側から淡く白い光を漏らした。

 その光は、焚き火のように温かく、それでいて星明かりのように冷静だった。二つの感触が混ざり、エルドは思わず胸に手を添える。


 足もとに、静かに光の紋が浮かび上がる。

 まるで衡珠が言葉のない呼び声を発しているかのようだった。


 ――白珠の意志へ触れよ。


 誰にも聞こえない声が、風の向こうで囁きかける。

 エルドはその導きに従い、光の紋へ一歩踏み出した。


 視界が反転した。


 気づけば、そこは白一色の空間だった。色という概念すら希薄で、輪郭も音も霞む。だが不思議と恐怖はなく、どこか懐かしさすら感じさせる静寂が広がっている。


 空間の中央に、衡珠の“片割れ”だけが浮かんでいた。

 黒珠の気配はなく、白珠だけが小さく揺れていた。


 近づくと、白珠の内部に細い光の糸が揺れ、そのたびに柔らかな波紋が空間へ広がる。

 波紋に触れても痛みはない。むしろ、心の奥に沈んだ不安や迷いを静かに和らげていくようだった。


 エルドは理解した。


 ――これは「調和と導き」の力。


 ただ攻撃する力ではない。

 ただ守る力でもない。

 異なるものと異なるものを繋ぎ、対立の先に新たな道を生み出す、ひとつの“意思”。


 その瞬間、白珠からひとつの影が現れた。


 人影ではなく、光の欠片が寄り集まり、人の形に近い輪郭を成しているだけだった。声も名前もない。ただ、白珠の意思がその姿を借りているのだと直観した。


 影はゆるやかに手を伸ばす。

 触れるべきか迷う間もなく、エルドは受け止めた。


 指先が光に触れた瞬間、白珠の記憶が流れ込んだ。


 その光景は、遠い昔の何かだった。

 血族の争い。誤解から生まれた敵意。

 “審判”の力を持つ者たちが、互いの正義を否定し合い、世界を損なった過去。


 その中心に、白珠は確かに存在していた。


 争う両側を見つめ、泣きも笑いもせず、ただ静かに“調和”を求め続けた器。

 誰かを裁くためではなく、誰かと誰かを繋ぎ直すために創られた力。


 光の影は、静かに胸元へ触れた。

 白珠がふたたび強く脈動し、エルドの心臓の鼓動と重なっていく。


 次の瞬間、白珠が眩い光を放った。


 その光は空間全体を震わせ、形を変え始めた。

 珠は砕けることなく伸び、細長い輪となり、繋がり、やがて一本の“杖”の形を成した。


 ――〈白衡の導杖〉。


 白珠に宿っていた調和の力を武具として顕現させた姿だった。

 杖の先端には小さな光の球が浮かび、脈動は呼吸に合わせて静かに揺れている。


 エルドは手を伸ばし、その杖を握る。

 触れた瞬間、白珠の意志が柔らかく流れ込んだ。


 刃ではなく、暴力でもない。

 道を開き、迷いに光を差し、衝突の中に和解の芽を探す力。


 それは、強いだけの力とは決して交わらない“別の強さ”だった。


 白い空間がゆっくりと溶け始める。

 視界が戻り、光の大樹の根元へ帰還する直前、白珠の意志がひとことだけ告げた。


 ――「歩む道を照らそう」


 耳の奥に残ったその声は、やさしく、穏やかで、確かな強さを宿していた。


 エルドは深く息を吸う。

 胸元の杖が微かに光り、未来へ進むための方向を静かに示している。


 争いの渦に巻き込まれる世界で、この力は何をもたらすのか。

 導くべき相手は誰なのか。

 そして、白と黒、どちらの意志が未来を形作るのか。


 その答えは、これから歩む旅の中で明らかになるだろう。


 エルドは〈白衡の導杖〉を手に、静かに歩き出した。

 調和の光を胸に、争いの先を変えていくために。



---



◆ 三つの分岐を選べ



おぼろ ―《揺曖の環を抜ける道》


 白衡の導杖が淡く揺れ、光の大樹の根の奥に、薄い膜のような道が浮かび上がる。

 朧の道は輪郭の定まらない層で構成され、触れるたびに形を変える。

 曖昧な記憶、形にならなかった願い、選ばれなかった可能性が白い霧となって漂っていた。


 歩けば歩くほど、景色は呼応するように揺らめき、心の奥に埋もれた不確かな輪郭が表面へ浮かび上がる。

 迷いも葛藤も否定することなく、ありのまま受け入れながら進む道だった。

 導杖の光は、曖昧な霧を無理に晴らすのではなく、揺れた形に寄り添うように脈打つ。


 この道を選ぶことで、世界の“未確定”を受け止める術が育まれる。

 定まらないものと共に歩む強さを得る――それが朧の分岐の本質だった。


あかつき ―《萌芽の縁に立つ道》


 白衡の導杖が明け方の光のように色を変え、前方に細長い裂け目が開いた。

 そこから流れ出たのは、夜と朝の境界だけが持つ温度をまとった空気だった。

 暗闇の余韻を残しながらも、新しい光が確実に世界を広げていく。


 暁の道は、何かが生まれる瞬間だけを連ねたような層だった。

 小さな芽吹きが空中に浮き、光の粒となって流れ、触れればわずかに未来の気配が揺れる。

 過去の傷跡が消えるわけではない。しかし、その表面には必ず新しい色が差し込んでいた。


 導杖を握る手に、微かな震えが伝わる。

 それは恐れではなく、まだ知らない世界を開く鼓動だった。

 暁の道を選ぶ者は、残された闇を抱えながらも、一歩先の始まりを照らしていく。


ともり ―《静火の導きに寄り添う道》


 白衡の導杖の先端で灯がともり、柔らかな橙の光が辺りを包む。

 それは火でありながら、熱ではなく“温度の記憶”だけを残す静火だった。

 炎は揺らがず、ただまっすぐに前へ伸びる細い道を照らしていた。


 燈の道は、外の世界よりもむしろ内側へ向かう層として広がる。

 これまで積み重ねてきた経験、選んだ道、失われた道、すべてが薄い影となって寄り添ってくる。

 導杖の光は、その影たちを否定するのでも、消し去るのでもなく、静かな光で輪郭を整えていく。


 足を進めるほど、影は道の両側に並び、やがてゆっくりと後押しするように揺れた。

 それは過去が鎖となって縛るのではなく、灯を支える燃料として温かく流れ込む感覚だった。


 燈の道を選ぶ者は、内なる火を整え、世界ではなく“自己の歩み”を静かに照らし続ける。



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