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エルド奇譚:迷宮の祠と真名の石  作者: VIKASH
第五の試練

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AA 《金枝の王威》

◆ AA 《金枝の王威 — アナザーエンド:黄金根源のゆらぎ》



 王威の紋が広がるたび、金色の枝葉は複雑な文様を描きながら伸び続けた。腕から胸、そして背へと伝い、大樹そのものの形を模した光の輪郭が浮かび上がる。それは力の解放であるはずなのに、どこか異質な気配を帯びていた。歴代王の威光が重層的に重なっていくほどに、体の奥で微かな響きが増していく。


 その響きは、祝福にも拒絶にも似ていなかった。むしろ、どこか「迷っている」ようだった。


 過去の王たちが残した意志の連なりは、常に一本の道を形成してきた。栄光と責務。犠牲と守護。王家とは、永遠に伸びる一本の直線であるべきだと、多くの王が信じてきた。しかし、今広がる金枝は、一本の線ではなく、複雑に編まれた“根”のように分岐し始めていた。


 金色の根が、空洞の床をゆっくりと覆っていく。触れた場所は淡い輝きを宿し、まるで長い眠りから目覚めた古い記憶のように、ゆっくりと脈動した。枝葉ではなく、根が広がっている。これは過去の記録には存在しない現象だった。


 視界がわずかにゆがむ。遠くに佇む歴代の王たちの残響は、静かに佇んだまま。だが、その輪郭の奥には、誰も知らない層が存在していた。王として名を残さなかった者たち。誓いを継ぐ途中で道を失った者たち。名も残らず、血脈だけが継いできた陰の層。


 金枝の根は、その層へと吸い込まれるように伸びていく。


 すると、空洞の奥に淡い“第二の核”が浮かび上がった。石台の中心にあったプライム・コアとは異なる色を宿し、金ではなく白金に近い光が揺らめいていた。大樹が本来保持していた力の“裏層”。血筋の外縁に流れていた、未完成の意志の結晶。


 それは、歴代の王たちすら気づけなかった根源だった。


 金枝の紋は、その第二核に反応して震え、光が複雑に乱れた。受け継ぐべき王威が、本来とは異なる方向へ広がり始めていることを示していた。


 第二核から流れ込んでくる感覚は、激しさではなく静謐さに満ちていた。力を支配するのでも、守護の重圧を背負うのでもない。もっと根源的で、形を持たない意志。王という形すら存在しない場所から発せられた、“はじまり”の感覚。


 金枝は、その感覚に共鳴しながら姿を変えていく。枝葉が淡く透け、光だけの構造へと変質し、王威の紋章が複雑な環を描き始める。まるで、王家の象徴そのものが別の意味を帯びていくようだった。


 光が天井まで立ち上り、空洞の内部は黄金ではなく白金の色に染まった。歴代の王たちの残響は揺らぎ、その中のいくつかは完全に姿を消した。消滅ではなく、何か別の層へ移ったような感覚だけが残った。


 金枝はさらに変質する。枝葉だった光は一つの球体を包み込むように収束し、胸の近くへと集まっていく。王威の力は本来なら外へ広がり、王としての存在を強化するはずだった。しかし今は反対に、内へと沈み、重心を深層へ移していった。


 その動きの先で――先ほど現れた白金の核が、静かに共鳴を始める。


 白金の光が胸元へ吸い込まれていくと、大樹全体が一瞬呼吸を止めたように沈黙した。次の瞬間、根のように広がっていた金枝がすべて光の粒となり、天井へ舞い上がる。


 静寂の中で、胸の奥にひとつの脈動が生まれた。


 それは、歴代の誰とも違う、まだ名前を持たない“新種の王威”だった。


 強さとも、守護とも、支配とも異なる。王という概念そのものを枝葉ではなく根から組み替える力。王家の歴史が積み上げてきた直線を、一度解体し、別の形へと再構築する力。


 空洞の光が穏やかに揺れ、白金の輝きが大樹の内部を滑るように満たしていく。過去の王たちが積み上げた誓いは消えたわけではないが、その形は従来のままではいられない状態へと変わった。


 王威を受け継ぐ者は、“未来の王”ではなく“根源の再構築者”へと変質していた。


 足元に現れた道は、どの王も歩んだことがない曲線を描いていた。直線ではなく、複数の層を同時に進むような、多元的な軌跡。それは未来の王家が一本ではなく、複数の可能性として広がることを示していた。


 金枝の紋は胸の奥で静かに脈打ち続け、身体全体へ柔らかな熱を与えた。新たに形成された王威は、決して暴走するものではなかった。むしろ、中心へ集まった光は、周囲の気配を穏やかに整え、世界そのものを安定させる“調律”の力を持っていた。


 光が収束した空洞の中で、新たな歩みが始まる。

 そこにあるのは、王家の決まった未来ではなく――

 歴史そのものを編み替える根源の再構築の道だった。



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