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エルド奇譚:迷宮の祠と真名の石  作者: VIKASH
第四の試練

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γ² 《鏡面の回廊を進む》

◆Iルート γ²「鏡面の回廊を進む」

《正規ルート:心像の試練/夢界踏破》



 黒晶の柱たちが遠ざかるにつれ、空気は透明度を増し、音という音がすべて吸い取られていくようだった。通路の先に待っていたのは、鏡のような光を宿す回廊。壁、床、天井――すべてが完璧な鏡面でできており、足を踏み出した瞬間、自分の影が無限に伸び、重なり合い、ねじれながら空間いっぱいに広がっていった。


 回廊は静寂そのものだった。だが、その静けさは安寧とは違い、どこか深い眠りの入口に立たされたかのような、甘く危険な気配を帯びていた。進むごとに鏡面はわずかに波打ち、反射された像は微妙に歪む。最初こそ気のせいのように思えたが、次第に歪みは深まり、影と像は遅れて動き、まるで別人格のように表情を変えはじめた。


 歩を進めるたび、鏡の像たちはエルドの内奥を映し出した。幼い頃の記憶。忘れたはずの声。胸を締め付ける失敗。選ばなかった道の後悔。鏡面は心の底に沈んでいた断片を、容赦なく光の中に引き上げる。否応なく思考は乱れ、足元が不安定になった。


 ある時、回廊全体が微かに震えた。前方に見える鏡が、自らの形をゆっくりと失っていく。光が溶け、影が混じり、生き物のように蠢く幻が姿を現した。鏡像の奥に広がるのは、深い眠りの世界。そこで笑う者、泣く者、祈る者、消えていく者……すべてが“夢の中の誰か”だった。


 足を踏み入れた次の瞬間、落下するような感覚が全身を貫いた。


 鏡の回廊は、夢の層へと沈み込んでいく。景色は常に変化し、確かな形を持たず、ただ心象だけがこの世界の地図となる。思い描けば道が現れ、迷えば空間がねじれ、立ち止まれば世界が凍る。


 進めば進むほど、現実感覚は薄れていった。記憶が曖昧になる。自分が誰で、どこへ向かっていたのかさえ、ぼんやりと霞んでいく。


 夢に魅入られた瞬間、鏡面の奥から手が伸びた。やわらかく、温かく、眠りへ誘う甘い感触。そこに身を委ねれば、永遠に安らぎの中で漂い続けるだろう。それが罠だと理解しているのに、心のどこかで抗い難い誘惑が広がる。夢の層は静かに語りかける。


 ――過去を忘れ、傷を癒し、眠りの中に戻れ。


 現実を思い出すことが、どうしようもなく遠く感じられた。鏡面の中に、自分が立っている。静かに微笑み、手を差し伸べている。ひどく穏やかで、苦しみも恐れもない顔。その幸福な像に吸い込まれそうになったとき、胸の中で、深核の欠片が小さく脈動した。


 熱が広がり、意識の奥に一本の線が戻る。音も光も失われた世界に、ひとつだけ確かな声が響いた。



「戻る理由なら、もう掴んでいるだろう」



 その瞬間、夢の層が砕けた。


 鏡像の手は崩れ去り、回廊の光が揺れながら形を取り戻す。足元の鏡面が強烈に反射し、一筋の道筋だけがまっすぐに伸びた。幻に囚われていた感覚が剥がれ落ち、重力が戻り、現実の輪郭が鮮明になる。


 再び歩き出すと、鏡の壁は先ほどとは違う輝きを宿していた。そこにはもう歪んだ像はなく、回廊の奥にある“出口”へと集中する光だけが続いている。歩を進めた瞬間、鏡面が音もなく開いた。


 そこには浮遊する小さな黒晶があった。夢の層から凝縮されたような、淡い蒼光を帯びた結晶。



――夢界の欠片〈ドリーム・フラグメント〉



 掌に触れた瞬間、温かさが広がり、幻に抗う力が静かに宿る。夢に囚われず、真実を見抜く力――鏡の回廊が与えた褒賞だった。


 光が道を作り、回廊の終端がゆっくりと開く。


 深い眠りの誘惑を断ち切り、心像の試練を越えたことで、新たなルートへの扉が静かに姿を現していた。



---



◆ 夢界分岐:夢界の欠片を捧ぐ三つの門


──眠りの深層でしか開かない特別ルート──


CAルート《夢痕を掬い上げる》


 夢界に足を踏み入れた瞬間、現実の重力は薄れ、足元の大地はゆるやかに波打つ。そこには、眠りの残滓が雨粒のように漂い、触れれば消えてしまうほど儚い。


 エルドは掌に宿す「夢界の欠片」をかざした。淡い光が夢の残香を引き寄せ、ひとつの“夢痕”を形として掬い上げる。

 それは、かつて見た夢の情景でもあり、未来で見るはずだった夢の片鱗でもあった。


 掬い上げられた夢痕は、現実の行動へと影響を与える“予兆”となる。

 まだ起きていない出来事が、静かに方向を変え始める。



---



CBルート《夢路を繋ぎ直す》


 夢界の奥には、断ち切られた夢の道が漂っていた。蜘蛛の糸のように細く、途切れたまま宙に浮かび、近づくほどに時の感覚が乱れていく。


 エルドは「夢界の欠片」を砕き、光の粒として散らした。その光は途切れた夢路に吸い込まれ、失われたはずの道筋を再び結び直していく。


 結ばれた夢路は、過去と未来をつなぐ一本の隠された道となり、彼の進むべき方向に新たな“因果の回廊”を開いた。


 夢の中でしか存在しなかったはずの選択が、現実側へと滲み出していく。



---



CCルート《夢影を実体化させる》


 深層へ降り立つと、そこには人影のような“夢影”がいくつも揺れていた。姿かたちは曖昧で、感情だけが先に滲み出している。触れられないはずの存在。


 エルドは胸元から「夢界の欠片」を取り出し、その光を夢影へ注ぎ込んだ。光は輪郭となり、揺らいでいた影に重さと形を与えていく。


 夢影はゆっくりと実体化し、現実世界に踏み出す力を得た。

 それは彼の記憶から生まれた存在なのか、

 それとも別の誰かの夢から流れ込んだものなのか、判別はつかない。


 ただ確かなのは、

 その“夢から生まれた実体”が、これからの旅路に決定的な影響を与えることだった。



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