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エルド奇譚:迷宮の祠と真名の石  作者: VIKASH
第三の試練

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❸ - γ 《黒晶の扉を開く》

◆Iルート  γ「黒晶の扉を開く」

《正規ルート:深核の結晶殿》




 光の点が三つ並ぶ中、最も沈んだ気配を放つ一点――黒晶の通路が、静かに脈を打った。触れれば壊れてしまいそうなほど繊細な闇。それなのに、そこには別のどの道よりも濃密な力の気配が宿っていた。引き寄せられるように歩み寄ると、道の先がゆっくりと開き、黒い結晶で組まれた巨大な扉が姿をあらわした。


 扉の表面は鏡のように滑らかで、近づくほどに温度が下がる。だが、冷たさの奥には微かな熱が潜んでいた。まるで、深層に燃える核が外へ漏れ出すのを必死に押し留めているかのようだ。


 エルドが手を伸ばすと、指先が触れるより早く扉が震え、低い声のような響きが通路全体を揺らした。



「……来るか」



 声は外からではなく、扉そのものから届いた。意思を持つ門。ここから先は、ただの試練では済まない――そう理解するより早く、扉は重々しい音を響かせながら開いた。


 内部は広大な空間だった。黒晶が天井から床へ、無数の柱となって連なり、淡く赤い光がその内部を脈動するように走っている。何かが生きている。そう錯覚させるほど、空間は規則的に揺れていた。


 中央には、漆黒の台座。その上に、一つの結晶が浮かんでいた。



 〈深核結晶ネクサル〉。



 黒と紅が入り交じった、不穏で美しい光。渦巻くエネルギーが空間全体を満たし、足元から何かが吸い寄せられるような感覚が生まれる。


 エルドが近づくと、結晶は震え、声とも音ともつかぬささやきを放った。



「……触れれば、核に沈む。それでも望むのか」



 問いというより、審判の宣告。それでも歩みを止める理由にはならなかった。



「望む。避けて通れば、何も得られない」



 自らの声が静かな結晶殿に吸い込まれ、瞬間、黒晶が高く鳴動した。柱の一本一本が光を帯び、空間全体が震える。まるで結晶殿そのものが、エルドの覚悟へ返答しているかのようだった。


 手を伸ばす。指先が結晶に触れた瞬間、視界が白く弾け、重力が反転するような感覚に襲われた。



 心臓の鼓動が一度止まる。


 次の瞬間――


 黒晶の光がエルドの体へ一気に流れ込んだ。


 火柱のような熱が血管を駆け巡り、脳裏に無数の声が響く。喜び、怒り、絶望、祈り……誰のものとも知れない感情が奔流となって押し寄せ、視界を灼く。崩れ落ちそうになる膝を必死に支えたところで、結晶の声がはっきりと響いた。



「まだ沈むな。選ぶ者よ。

 耐えるか、壊れるか……試させてもらう」



 呼吸が乱れ、身体の芯が焼かれるように熱くなる。意識が焦げ付いていくのを引き戻すように、エルドは掌に力を込めた。



「……離す気は、ない」



 その言葉を最後に、結晶から発せられる光が一瞬だけ鎮まった。



 そして――爆ぜた。



 黒晶の殿全体が暗転し、次の瞬間、深い静寂が訪れた。柱の輝きは失われ、殿はまるで長い眠りについたように動きを止める。


 手の中には、小さな脈動を続ける黒紅の結晶。



 〈深核の欠片〉。



 主を選んだ証であり、同時に殿の力を引き受けた証でもあった。胸の奥に残る熱はまだ消えず、内側で何かがゆっくりと覚醒を始めている。


 その覚醒が祝福なのか、呪いなのか――今はわからない。


 ただ、黒晶の扉の外へ一歩踏み出した瞬間、背後で扉が音もなく閉じた。



「……進むしか、ないか」



 静かな呟きとともに、結晶殿の余韻が消え、道は新たな光へと続いていた。


 深核の力を手にしたことで、避けられない運命がひとつ、生まれた。



---



◆ 「黒晶の扉を開く」 ― 試練の核心


 黒晶の扉は漆黒に光を吸い込み、触れる者の気配を慎重に測るかのように微かに震えた。エルドが手を伸ばすと、扉の表面がざわめく水面のように揺れ、指先に冷たい感触が走る。闇は生き物のように息づき、光を拒絶しながらも、進む者にその深奥を示すかのように静かに開かれた。


 扉の奥には広大な殿堂が待っていた。天井は高く、黒晶の柱が無数に立ち並び、その表面に刻まれた紋様が微かに脈動する。漆黒の光と影が複雑に絡み合い、空間全体に重厚な圧迫感を与えていた。足を進めるたび、柱の紋様が輝きを増し、低くうなるような振動が床を伝わる。殿堂の中心には一つの巨大な黒晶の結晶が浮かび、淡い光の脈動を放っていた。



「……これは、試練の核心……」



 囁くように声が漏れたのは、空間に反響する自分の感覚だったのか、それとも迷宮の意思そのものだったのか判然としない。脈動はやがて振動となり、結晶が周囲の闇を吸い込みながら、道を通る者の潜在的な力を呼び覚ます。エルドの視界は、無数の影と光の交錯で満たされ、微細な震えが全身に広がった。


 結晶に近づくほどに、殿堂内の闇は柔らかくなり、触れた指先には温かさと冷たさ、圧迫と解放が同時に伝わる。脈打つ光の中心に手をかざすと、黒晶の結晶は応答するかのように淡く光を返した。その瞬間、無意識に蓄積されていた力が覚醒し、長く閉ざされていた感覚が一気に開放される。


 奥深くで、結晶の光が次の道を示した。三つの方向に、微かな光の流れが現れ、それぞれ異なる試練と可能性を告げていた。足を踏み出すと、床の黒晶がわずかに揺れ、導く光の流れが足元に沿って伸びる。ここでの選択が、迷宮の先を大きく左右するのは明白だった。



---



◆次の三つの選択肢



γ¹. 黒晶の階段を昇る

 黒晶でできた螺旋状の階段が天へと続く。高く登るほど、精神と集中力の試練が増す“天上の試練”。最も困難だが、成功すれば力の大幅な覚醒が得られる。



γ². 鏡面の回廊を進む

 壁も床も光を映す鏡面で構成された回廊。反射する像と記憶が絡み、進む者の判断力を試す“心像の試練”。誤れば幻に囚われる危険あり。



γ³. 黒晶の深核に触れる

 中心に浮かぶ結晶そのものに触れ、未知の力を直接吸収する選択。強大な加護と同時に、制御できぬ力の奔流に飲まれる危険も孕む“核心吸収の試練”。



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