❸ - γ 《創造の未来》
◆ 《創造の未来》 ―「白紙の迷宮」
無色透明の光が円を描き、無限の可能性を浮かび上がらせる。
ここには規則も定めもなく、成功も失敗も存在しない。すべてが未決定であり、形のない未来が漂う。エルドは足を踏み入れ、白紙の光の中を進む。歩くたびに、世界の輪郭はかすかに揺れ、彼の意志に応じて変化するが、決して確定はしない。
やがて、彼の前に浮かび上がったのは、無数の光点が絡み合う迷宮のような構造だった。通路も壁もなく、ただ意識の力で形作られる空間。踏み出すたびに道は崩れ、手に触れたはずの未来は霧のように散る。過去や現在の記憶はまるで鏡の欠片となって漂い、未来の可能性は一瞬で蒸発する。
エルドは理解した。この道は、決して完成しない。自由の代償は、秩序の喪失である。歩むほどに、意志で形作れるのは小さな光の断片のみで、どれも大きな意味を持たない。試みるたびに道は裂け、見えたはずの可能性は泡のように弾ける。
進むにつれ、孤独の感覚が重くのしかかる。誰もいない世界で、すべてを自分一人で決めねばならないという重責。光は優しく揺れるが、温もりはなく、意志を試すだけの鏡のような存在に変わる。希望も恐怖も、歓喜も悲嘆も、すべては光の粒子として儚く散っていく。
歩き続けるうちに、エルドの意識は光と混ざり始めた。彼の意思で形作られたはずの道は逆に、彼の存在を試す迷宮となり、光は無限の渦を描く。手に取れるはずの未来は手のひらをすり抜け、頭上に浮かぶ星々は淡く揺れるだけ。彼の思考は出口を求め、心は焦燥に包まれるが、方向はどこにも定まらない。
やがて、迷宮の中心に到達したかに見えた。しかしそこにあったのは、完全な虚無だけだった。足元の光は消え、周囲の光点は静止し、無の空間が広がる。形も色もなく、時間すら止まったかのようだ。エルドは立ち尽くす。ここには正解もない。ここにあるのは、ただ自分の意思だけを試される無限の空白であった。
だが、虚無の中に微かな実感が残る。それは、彼が歩んだ道が確かに存在していた証だ。未来は形を持たないが、エルドの意志の一部は光として残り、かすかな波紋を生む。創造の自由を選んだ代償として、得られたのは無限の可能性ではなく、選択そのものの孤独。
迷宮はやがて静寂に包まれ、光は徐々に消え、空間は完全な白紙となった。
エルドはその中央に立ち、何も持たず、何も確かめられず、ただ“白紙”の未来を抱える。すべてを築く力はあったが、何も築くことはできなかったのだ。迷宮は終わったが、彼が得たのは自由の幻影――望んだはずの創造は、誤った選択によって孤独の中に埋もれ、未来は再び、白紙のまま残される。
こうして、彼の歩みは終わる。形なき光の中に一人立ち尽くすエルド――創造の自由を選んだ代償として、彼は何も決められないまま、無限の虚空の中に留まった。未来は閉ざされ、可能性は消え去った。しかし、光の断片が微かに残り、いつか再び、新たな道を紡ぐ可能性を示していた。
《アナザーエンド》




