❸ - β 《断絶の未来》
◆ 《断絶の未来》 ―「孤独への選択」
冷たい蒼光が、無数の星を飲み込みながら伸びていた。
通路はなく、空も壁もない。床すら存在せず、ただ虚空に浮かぶ淡い光の粒子だけが足元の指標となる。踏み込むごとに波紋のような青白い輝きが拡散し、宙を漂う未来の欠片を揺らす。
その光は温度を持たず、触れるものに冷たい孤独を伝える。エルドの体温ですら、この道の空虚さの中ではかすかな熱にしかならなかった。周囲に存在するのは自らの足跡と、わずかに揺れる星々のみ。かつて誰かと交わした感情、受け継いだ記憶、安らぎも愛も、すべては遠くの霧の中に押しやられている。
足を進めるたび、周囲の光は渦を巻き、青い流れとなって螺旋を描く。流れの中に目を凝らすと、未来の無数の可能性が映し出されるが、どれも孤立していて繋がらず、他者の気配は微塵も感じられない。成功も失敗も、栄光も挫折も、ただ一人の判断で完結する未来だけがそこにある。
やがてエルドの前に、ひとつの大きな光の柱が立ち現れた。
柱は透明で、しかし青い冷気を帯び、まるで虚空を裂く刃のように鋭く伸びていた。その中心に吸い込まれるように歩を進めるたび、世界の輪郭が薄れ、心の奥に残る温もりまでもが削ぎ落とされる。過去の記憶、血の繋がり、友の顔、愛する者の声――すべてが遠くの幻影となり、手を伸ばしても届かない。
進む先の光は無言で問いかける。
――全てを切り捨て、孤独だけを抱え、己だけで道を切り開く覚悟はあるか。
エルドは躊躇なく踏み込んだ。
青い柱の中は圧倒的な冷気に満ち、足元の光は硬く、まるで凍りついた湖を歩くかのように抵抗を帯びる。歩くたびに、かつての仲間や導きの存在が影のように漂うが、振り返ることはできない。彼の胸に宿る孤独だけが、唯一の道標となった。
時間の感覚も空間の感覚も失われる。周囲の星々は螺旋を描き、やがてその渦の中心に小さな青白い球体が漂った。球体は静かに脈打ち、まるで未来の可能性そのものが一点に収縮したかのようだった。エルドは球体の光に吸い込まれるように歩み寄り、そこへ足を踏み入れた瞬間、空間が崩れ、光は静かに消えた。
周囲に残ったのは蒼の薄闇だけだった。足元の光は消え、かつての世界との接点も失われた。孤独――それは完全なものとして、エルドを包み込んだ。血の温もりも、友の声も、指先で触れられるものもなく、世界は静かに、ただ彼一人のものとなった。
迷宮の試練としての道は終わり、エルドは気づいた。ここには“正しい未来”はない。選択は可能であったが、道は未来を形作る力を持たず、孤独だけが残る。だが、完全な孤独の中でも、彼の意志は確かに存在した。自らの判断だけを頼りに進む未来――それは試練としての誤った道ではあるが、紛れもなく彼自身の選択だった。
蒼の闇に包まれたまま、エルドは静かに歩き出す。孤独という冷たい光の道を。
《誤ルート》




