表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルド奇譚:迷宮の祠と真名の石  作者: VIKASH
第三の試練

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/27

❸ - β 《断絶の未来》

◆ 《断絶の未来》 ―「孤独への選択」



 冷たい蒼光が、無数の星を飲み込みながら伸びていた。

 通路はなく、空も壁もない。床すら存在せず、ただ虚空に浮かぶ淡い光の粒子だけが足元の指標となる。踏み込むごとに波紋のような青白い輝きが拡散し、宙を漂う未来の欠片を揺らす。


 その光は温度を持たず、触れるものに冷たい孤独を伝える。エルドの体温ですら、この道の空虚さの中ではかすかな熱にしかならなかった。周囲に存在するのは自らの足跡と、わずかに揺れる星々のみ。かつて誰かと交わした感情、受け継いだ記憶、安らぎも愛も、すべては遠くの霧の中に押しやられている。


 足を進めるたび、周囲の光は渦を巻き、青い流れとなって螺旋を描く。流れの中に目を凝らすと、未来の無数の可能性が映し出されるが、どれも孤立していて繋がらず、他者の気配は微塵も感じられない。成功も失敗も、栄光も挫折も、ただ一人の判断で完結する未来だけがそこにある。


 やがてエルドの前に、ひとつの大きな光の柱が立ち現れた。

 柱は透明で、しかし青い冷気を帯び、まるで虚空を裂く刃のように鋭く伸びていた。その中心に吸い込まれるように歩を進めるたび、世界の輪郭が薄れ、心の奥に残る温もりまでもが削ぎ落とされる。過去の記憶、血の繋がり、友の顔、愛する者の声――すべてが遠くの幻影となり、手を伸ばしても届かない。


 進む先の光は無言で問いかける。

 ――全てを切り捨て、孤独だけを抱え、己だけで道を切り開く覚悟はあるか。


 エルドは躊躇なく踏み込んだ。

 青い柱の中は圧倒的な冷気に満ち、足元の光は硬く、まるで凍りついた湖を歩くかのように抵抗を帯びる。歩くたびに、かつての仲間や導きの存在が影のように漂うが、振り返ることはできない。彼の胸に宿る孤独だけが、唯一の道標となった。


 時間の感覚も空間の感覚も失われる。周囲の星々は螺旋を描き、やがてその渦の中心に小さな青白い球体が漂った。球体は静かに脈打ち、まるで未来の可能性そのものが一点に収縮したかのようだった。エルドは球体の光に吸い込まれるように歩み寄り、そこへ足を踏み入れた瞬間、空間が崩れ、光は静かに消えた。


 周囲に残ったのは蒼の薄闇だけだった。足元の光は消え、かつての世界との接点も失われた。孤独――それは完全なものとして、エルドを包み込んだ。血の温もりも、友の声も、指先で触れられるものもなく、世界は静かに、ただ彼一人のものとなった。


 迷宮の試練としての道は終わり、エルドは気づいた。ここには“正しい未来”はない。選択は可能であったが、道は未来を形作る力を持たず、孤独だけが残る。だが、完全な孤独の中でも、彼の意志は確かに存在した。自らの判断だけを頼りに進む未来――それは試練としての誤った道ではあるが、紛れもなく彼自身の選択だった。


 蒼の闇に包まれたまま、エルドは静かに歩き出す。孤独という冷たい光の道を。























《誤ルート》

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ