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エルド奇譚:迷宮の祠と真名の石  作者: VIKASH
第三の試練

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❸ - α 《継承の未来》

◆ 《継承の未来》 ―「受け継がれる意志の道」



 金色の風がたゆたうように流れ、エルドの足元から静かに広がった。

 その光は暖かく、かすかに懐かしい匂いを帯びていた。草の香りに似ているが、それだけではない。もっと深い、骨の奥にまで染み込んだような古い記憶の匂い――血族の記憶の残り香であった。


 足元に広がった光は、やがて一本の大樹へと姿を変えた。

 その幹は太く、まるで千年を越えてそこに佇んでいたかのように、圧倒的な存在感を放つ。枝は天へ伸び、葉は金色の粒子となって絶えず生まれ、絶えず散っている。散りゆく光は地面に落ちる前にふっと消えていき、次の瞬間にはまた新しい光が生まれる。永劫の循環を象徴するかのようであった。


 大樹の根元には、古い石碑が並んでいる。

 風化した表面に刻まれているのは名ではなく、紋のような刻印だった。エルドには意味がわからなかったが、不思議なことに、その紋を目にしただけで胸の奥が温かくなる。知らぬ誰かの名なのに、懐かしく思えた。


 大樹は微かな脈動を繰り返していた。

 鼓動のようなリズムで光が強まり、弱まる。その振動は足元から体へと伝わり、エルド自身の心臓の鼓動さえ揺さぶる。まるで、己の内側の血の流れが過去の存在たちと共鳴しているかのようであった。


 やがて金色の風が再び吹き、枝葉が揺れた。

 すると大樹の中心に、透き通るような光の道が浮かび上がった。木の内部に埋葬されていた記憶が形を成し、エルドの前に、ひとつの未来の形を提示していた。


 道は静かで、どこか厳かだった。

 重みがある。柔らかい光のはずなのに、踏み出す前から、その先に積み重なった責務の気配が押し寄せてくる。


 天に伸びる枝葉の間から、淡い影が垂れた。影は人の形をかすかに象り、姿を定めることなく霧のようにゆらめいている。それらは過去の誰か――エルドが名を知らずとも、自らの血の流れに刻まれた者たちだった。影はエルドを見つめているわけではなかった。だが、その存在だけで、道が“ただの未来”ではなく“継がれる未来”であることを雄弁に物語っていた。


 影のひとつが、大樹の幹に触れた。

 その指先から波紋のような光が広がり、大樹の根から空気が震えた。金の葉が一斉に舞い上がり、風のようなさざめきが広がる。そこには言葉はなかった。けれど、その動きは明らかに語っていた。

 ――この道は、自分だけのものではない、と。


 エルドの胸の奥に、重い何かが触れた。

 それは恐れではなかった。むしろ静かな緊張だった。背中に手を添えられたように、己一人の未来では済まされないという感覚があった。


 大樹の葉が舞い、ひとつの光がエルドの前へと降りる。

 小さな金色の種だった。

 手のひらに近づいた瞬間、その表面に刻まれた微細な紋章が淡く光り、内側で脈動しているのがわかる。呼吸するように、命を宿すように、脈打っている。


 それは継承の象徴だった。

 過去から託され、未来へ繋ぐための核。

 その種を手に取るということは、過去のすべてを引き受けるということだった。


 エルドは金色の風に包まれながら、静かに未来の道へ足を踏み出す。

 重圧は確かにある。

 しかし、苦しい重さではなかった。

 大樹の影も、過去の気配も、すべてが彼の背を押しているように感じられた。


 道は踏み出すほどに形を成し、足音に応じるようにしっかりとした質感を帯びていく。

 その先には、まだ見ぬ光景が広がっている。

 だが、それは一人の未来ではなかった。

 継ぐべきものの意思が重なり、束となり、一本の確かな道へと変わっていく。


 金色の葉がひらりと舞い落ちた瞬間、未来はゆっくりと開かれた。



---



◆ 新たな選択肢(正規ルート:継承の章)


α¹ 《王統の誓約》

 血族の記憶を受け継ぎ、未来の統治者としての宿命を背負う道。

 大樹の奥に眠る“王家の核”に触れ、己の名を未来へ刻む。


α² 《断片の継承》

 途切れた血脈を再び繋ぐ試練。

 過去に失われた真実を追い、途絶えた系譜の欠片を集める道。


α³ 《祖霊の審判》

 過去の血族たちと対面し、資格そのものを問われる最も厳しい道。

 認められれば力となり、拒まれれば未来を失う。



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