I - ❸ 影の番人と対峙する
◆Iルート ❸ 「影の番人と対峙する」
透明の道を進むほどに、空気は重く、沈んだ色を帯びていった。周囲の光は徐々に薄まり、道の両脇に立つ古い壁の輪郭が滲んでゆく。足元の石床はひんやりと冷たく、指先で触れると、まるで無数の小さな傷の感触が伝わってくるようだった。静けさは徹底的で、かすかな呼吸さえも外界に溶け込むように吸い取られてしまったかのように感じられた。
進むほどに、壁の影が不自然に濃くなり、足元の影もまた不規則に揺れ始める。光の屈折が生む幻か、それとも自身の心が映しているのか、エルドには判別がつかない。しかし、直感は警告していた。ここで待つのは、ただの敵ではない。己の弱さと不安、恐怖を具現化した存在――影の番人だ。
やがて、道の先に一筋の暗闇が現れた。黒い霧がまとわりつくように渦を巻き、輪郭の定まらぬ影の塊が、ゆっくりと立ち上がる。番人は形を変え、時には巨大な腕や長い影のように伸び、時には細い尖った触手を持つ存在に変化する。その動きは滑らかで、まるでエルド自身の恐怖の断片を意識しているかのようだった。
歩みを止めると、影は同じように立ち止まり、周囲の空間を圧迫する。足元の石床にひびが走り、壁面の模様がゆがみ、空気が濃密に流れる。自らの心臓の鼓動が耳を突き破るように響き、胸の奥からこみ上げる不安が、影をより鮮明に、より生々しく形作る。まるで番人は、エルドの心そのものに触れるために存在しているかのようだった。
影は声を持たない。だが、沈黙の中で語りかけるように、その姿勢や動きで恐怖や疑念を映し出す。過去の失敗、恐れていた弱さ、避けてきた選択――それらがエルドの視界に次々と現れ、心を揺さぶる。しかし彼は、呼吸を整え、体の中心に冷たい意識の芯を据えた。揺れることなく、目の前の影をただ見据える。受け入れるのではなく、拒絶するのでもなく、己の存在を認めながら、その虚構に対峙する。
足元の石床から微かな光が漏れ、影の輪郭を柔らかく照らす。光と闇が交錯し、空間は揺れ動き、番人の姿は一瞬、静止する。エルドの心に覚悟が満ち、冷静さと緊張が同時に広がる。その瞬間、影の番人は形を保てなくなり、霧のように拡散して空間に溶けていく。闇は消え、残るのは澄み切った空気と、確かに踏みしめた石床の感触だけだった。
深呼吸をひとつすると、道の先に柔らかい光が差し込んでいるのが見えた。これまでの幻や影が取り払われた空間に、次なる選択肢を示す三つの光点が浮かぶ。光は静かに、だが確実に脈打ち、エルドの足元へと導くように揺れていた。心の奥底で何も遮るもののない、清らかな決意だけが残る。影の番人を超えたことで、彼は初めて、自分自身の弱さと向き合った証を手にしたのだ。
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◆ 次の選択肢
α. 光の階段を登る
高く伸びる階段を登り、精神と意識を試す“天上の試練”。
β. 忘却の回廊を進む
記憶と感情を一度手放し、純粋な思考だけで前進する“心の浄化の試練”。
γ. 黒晶の扉を開く
未知なる力と直面し、内なる強さを引き出す“試練の核心”。




