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エルド奇譚:迷宮の祠と真名の石  作者: VIKASH
第二の試練

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20/30

I - ❶ 静寂の回廊へ進む

◆Iルート ❶「静寂の回廊へ進む」



 エルドは三つの光点のうち、一番奥に浮かぶ、淡く揺れる光を選んだ。

 その先に待つものが何であれ、歩みを止める理由はなかった。

 光の中心に近づくと、周囲の空気は急に引き締まり、耳に届く音がすべて吸い取られたかのように静まり返る。

 足音も呼吸も、風のそよぎも、世界のあらゆる響きが吸い込まれ、そこにはただ、沈黙だけが存在していた。


 回廊は想像以上に長く、壁も床も天井も、均整の取れた石材でできていた。

 苔やひび割れもなく、古さの匂いもない。

 光は天井から柔らかく差し込み、白い輝きの筋となって石床を縦に貫き、歩くたびに微かに揺れた。

 その揺れが、静けさの中で微かな意識の動きを呼び覚ます。

 歩みを進めるごとに、エルドの思考は鋭くなり、普段なら見過ごす感情や思いの断片に触れることが増えた。


 一歩、また一歩。

 回廊の長さに比して足は疲れを知らず、むしろ心の奥底で眠っていた感覚が徐々に目覚めていく。

 過去の後悔や恐怖、孤独や迷いが、静寂という鏡に映され、否応なく自分自身と向き合わせられた。

 その静けさは苛烈で、音のない世界は、幻や偽りを一切通さず、正確に思考の奥まで届く。


 壁面に映る光は、ただの光ではなく、歩みを進める度に過去の記憶や感情を浮かび上がらせる。

 笑顔で転ぶ弟、幼い日の自分、友と交わした言葉、そして心の隅に置き去りにした弱さ。

 どれもが揺らめく影となり、声を発することなく、しかし確かに存在を主張している。

 エルドはそれらを避けず、拒まず、ただ見つめる。

 闇や後悔を振り払おうとせず、心の奥に積もったものをそのまま抱きしめるように、歩みを止めることなく。


 回廊の奥、光が一点に集まる場所に差し掛かると、空間の重さが変化した。

 微かに空気が震え、視界の隅で形を成す光の帯が、透明な壁として立ち現れる。

 そこには出口もなければ扉もなく、ただ、視覚的に自らの思考の輪郭を映す鏡のような存在だった。

 鏡に映るのは、エルド自身の姿ではなく、過去と未来、理想と現実が混ざり合った自分の内面だった。


 歩みを止めることなく、エルドは鏡に近づく。

 息を整え、心を静めると、光がひと筋、胸の奥深くに差し込む。

 体の内側で何かが弾ける感覚があり、かつて重く沈んでいた心の荷が、ひとつずつ軽くなっていく。

 自分の弱さを否定せず、幻影に惑わされず、ただ受け入れることで、静寂は苛烈な試練ではなく、浄化の空間に変わった。


 やがて、回廊の長い静寂の終わりに近づくと、壁の光は徐々に消え、床に映る光の筋も消滅した。

 外の世界の音が戻り、風の匂いや遠くの草原のざわめきが耳に届く。

 静寂の中で研ぎ澄まされた感覚は、そのまま残り、世界のすべてをより鮮明に、より確かに感じさせる。


 回廊を抜けた先には、穏やかな朝の草原が広がっていた。

 先ほどまでの幻や試練の影はどこにもなく、ただ、目に映る現実だけが存在する。

 エルドの胸には静かな確信があった。

 過去や幻に縛られず、未来に怯えることもなく、ただ一歩ずつ、自分の歩むべき道を選べるという確信。


 その先、草原の先に小さく光る石が見えた。

 祠が示すものではない、しかし確かに存在する“未来への道しるべ”。

 エルドはゆっくりと足を踏み出す。

 静寂の回廊で得た心の均衡を胸に、風を受け、光を背に、未来へ向かって歩みを続ける。

















 《アナザーエンド》

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