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エルド奇譚:迷宮の祠と真名の石  作者: VIKASH
始まりの三道

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①《蒼の道》




◆ ①《蒼の道》を選んだ場合(知識の試練)


 エルドが蒼く輝く紋章へそっと指先を伸ばした瞬間、冷たい水面に触れたような感覚が腕を伝い、通路が静かに左右へ割れて開いた。

 内側から溢れ出たのは、深い湖の底にいるかのような澄んだ冷気。そして、それに混じる無数の光の粒――まるで星々の欠片がゆっくりと沈みゆくように漂っている。


 足を踏み入れた瞬間、世界の音が消えた。

 自分の呼吸ですら、どこか遠い。光の粒は一定の流れを持たず、エルドの周囲を緩やかに漂っては、衣の端に触れるたび、ひそやかな鈴のような響きを残した。


 通路は、やがて自然に広がり、円形の広間へと姿を変える。

 高い天井は闇に溶け、見えるのは無数の蒼い光だけ。まるで夜空を裏返して洞窟に貼り付けたかのようだ。

 その中心に、一段高く据えられた石台があった。

 古びているのに、不思議な威厳をまとっている。まるで長い年月、人の手が触れることを許さなかった聖域の一角。


 その石台の上に、一冊の分厚い書物が置かれていた。

 革表紙は裂け、金箔の装飾もほとんど剥がれている。しかし、触れられぬまま時が流れた書物特有の埃っぽさは感じられなかった。むしろ、淡い光が表面を照らし続けているかのような清らかさがあった。


 エルドが近づくと、書物はゆっくりと震え、ページがふわりと浮くようにして勝手にめくれた。

 一枚、二枚、三枚――

 紙が擦れる音はなく、代わりに穏やかな風のさざめきのような音が広間に満ちる。


 やがてページはある箇所でぴたりと止まり、そこに書かれていた文字が蒼い光を帯びながら宙へ舞い上がった。

 光文字はゆらりと浮遊し、エルドの目前で円環を描いて漂う。どれも古い呪文のようで、意味を持つ言葉が脈打つように輝いていた。


 ――知識の試練を始めます。


 無機質なのにどこか意思を感じる声が、足元から、そして頭上から、同時に響いた。

 広間そのものが語りかけているような、その響きにエルドの背筋がひやりと震える。


 ――正しき言葉を選ぶ者のみ、先へ進むことを許可します。


 壁面に刻まれた紋様が明滅し、三つの文が光の形となって浮かび上がった。

 どれも似ていながら、全く異質な気配を放っている。

 ひとつを選び唱えなければ、この部屋は永遠に閉ざされ、迷宮の最奥へ辿り着く道は失われてしまうだろう。


 エルドは深く息を吸い、手を胸に当てた。

 選択は、己の直感と理解に委ねられている。

 導きの欠片が微かに震え、まるで彼の思考を促すように淡く光った。


 ――答えを選べ。


 声が、静かに、しかし厳かに響く。


---


◆ 次の選択肢


A.「光よ、道を示せ」と唱える

B.「闇よ、真実を照らせ」と唱える

C.「時よ、記憶を開け」と唱える

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