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エルド奇譚:迷宮の祠と真名の石  作者: VIKASH
第二の試練

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18/30

E - ❷ 赤黒い霧の奥に進む

◆ Eルート《紅の道》

選択:❷《赤黒い霧の奥》に進む

正規ルート:宝玉の間


---


 赤黒い霧を抜けた瞬間、温度が急速に下がり、空気がひび割れた氷のように静まり返った。背後でうごめいていた魔獣の気配は途切れ、代わりに深部から、祠そのものの脈動のような低い震えが伝わる。炎の影響も戦いの熱もすべて霧の向こうに置き去りにされ、ここから先は別の領域であることが明らかだった。


 通路は緩やかに傾斜し、足を進めるにつれ、壁に埋め込まれた紋様が赤から黒へと変質していった。獣と人が交わったような図は霧の層に沈み、ただ祈りが破れた痕だけを残している。紅の道はもともと“共存の儀”を象徴していたという古伝を思い出しながら、エルドは道を進んだ。だが祭礼はすでに廃れ、今は封印と審判の迷宮だけが残っている。


 ほどなくして、広間が開けた。

 中心に祭壇、その上には一つの宝玉が浮遊している。

 宝玉は深紅に近い漆黒の輝きを宿し、淡く脈打つたびに周囲の霧を吸い寄せては放していた。


 導きの欠片が呼応し、低く震えた。

 それは歓喜ではなく、警告に近い光だった。


 広間には、宝玉を囲むように三つの石壁が並んでいた。

 そのどれにも形の異なる紋が刻まれ、それぞれ奥へ通路が伸びている。


 左手の壁には、鋭い角度の三角紋――《α》。

 燃える刃の紋様が幾重にも重なり、力を求める意志が刻まれている。

 奥から吹き込む熱風は、ガルラル・ハウンドの炎とは異なり、意志を持ったように螺旋を描いていた。

 この道は、“宝玉の力を受けて己を鍛え上げる試練”。

 代償を払う代わりに強大な加護を受けられるが、払うべき代償の大きさは誰にも知られていなかった。


 正面の壁には、円環の連なり――《β》。

 水面に落ちる記憶の波紋のように紋様が広がり、奥は薄い霧の層に覆われていた。

 道は静かで、どこか深海の底のような静謐すら感じさせる。

 これは“宝玉が宿す記憶に触れ、祠の真相を理解する道”。

 だが記憶の奔流は人の精神を容易に飲み込み、戻ってこられない者も多いと伝えられている。


 右手の壁には、黒い無紋――《γ》。

 何も刻まれていないにもかかわらず、その奥には確かな通路が存在し、光を拒む影の気配が満ちていた。

 この道は“いまは選ばず退く選択”。

 宝玉を取ることも触れることもせず、祠の試練を一時的に回避して先へ進む道。

 ただし祠はこの選択を記憶し、後の階層で形を変えた試練を必ず差し向ける。

 逃れた分だけ後の負荷が重くなるとされる、もっとも癖のある選択だった。


 宝玉は三つの道へ均等に血潮のような光を投げかけ、広間全体が呼吸するように脈打った。

 急かされる気配はない。

 ただ、選び取られることを待っている。


 この広間は“核心への入口”にすぎず、ここで得るもの、あるいは捨てるものが、後の試練の形を大きく変える。

 ガルラル・ハウンドとの死闘は始まりにすぎず、紅の道はまだ深く続いている。

 エルドは宝玉の脈動を感じながら三つの通路を見渡し、胸の奥で鼓動が重く響くのを確かめた。


 選ばれた道の先で、祠は真の顔を見せる。


 どれも正しく、どれも危険で、どれも祠の意思に組み込まれた必然だった。



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