表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルド奇譚:迷宮の祠と真名の石  作者: VIKASH
第七の試練

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

125/219

「黎」―《萌芽の章》

◆ 《れいルート ― 萌芽の章》



 断章の黎境が閉じゆくとき、世界は完全な秩序にも、激しい変革にも向かわなかった。

 選ばれたのは、まだ形を持たない“始まりの気配”だった。



 光片は統合されず、砕かれもせず、淡い霧のように各層へと散っていく。

 それらは物語になりきれない欠片のまま、世界の隙間に宿った。



 街の片隅で、理由のわからない希望が芽生える。

 荒野に、誰も命じていない苗が伸びる。

 戦いを終えた兵が、名もない子どもに剣の代わりに種を渡す。



 何が変わったのか、誰も説明できない。

 だが、世界はわずかに“呼吸を取り戻した”。



 衡珠はもはや未来を定めない。

 白と黒の均衡は解かれ、代わりに薄明の色が残った。

 それは決断を遅らせる力ではない。

 「まだ決めなくてもよい」という猶予そのものだった。



 エルドは断章の地に立ち尽くし、流れ去る光を見送る。

 ここでは、何も完結しない。

 だが、何も終わらない。



 このルートで救われるのは、確定した未来ではない。

 救われるのは、「まだ変われる」という可能性そのものだ。



 ある国では、長く続いた戦争が理由もなく止まる。

 勝者も敗者も決まらないまま、人々は武器を置く。

 誰かが命じたわけではない。

 ただ、続ける意味が見えなくなっただけだった。



 ある都市では、子どもたちが新しい遊びを始める。

 それは過去の物語にも、既存の制度にも属さない。

 名前すらないその遊びは、やがて文化になる。



 断章は未来を導かない。

 しかし、未来が生まれる余白を残す。



 エルドは理解する。

 この道は、英雄を生まない。

 劇的な勝利も、明確な救済もない。



 だが、物語が“自然に続いていく世界”を許す。



 均衡を保つ者も、断絶を選ぶ者も存在するだろう。

 それでも、この薄明の層は、すべての選択の下に流れ続ける。



 夜でも、昼でもない時間。

 始まりと終わりの境目。



 そこでは、誰もが少しだけ自由になる。

 決めきれないことを、罪としない世界が広がっていく。



 衡珠は静かに脈動を止める。

 役目を失ったのではない。

 世界に委ねたのだ。



 断章の黎境は消えない。

 それは、物語が生まれる直前の“息継ぎ”として、あらゆる場所に宿る。



 そして、どこかでまた、選びきれない存在が立ち止まる。

 そのとき、薄明は再び訪れる。



 物語は、まだ名を持たない形で、続いていく。
























《アナザーエンド》

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ