表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルド奇譚:迷宮の祠と真名の石  作者: VIKASH
第七の試練

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

113/191

「光」―《内奥より放たれる初光》

◆ 光ルート

《内奥より放たれる初光 ― 世界が逃げ場を失うとき》



 円環を越えたその瞬間、導杖の芯に宿っていた橙の静火は、わずかに色を変えた。燃え上がるのではない。拡張するのでもない。内側で重なり合っていた影が、互いを押し退けることなく整列し、ひとつの明度へと収束していく。その中心に生まれた白は、純粋というよりも、透過だった。


 光は、闇を追い払わない。

 否定もしない。

 ただ、輪郭を与える。


 それは触れたものの本質だけを浮かび上がらせ、装飾や言い訳、曖昧な余白を削ぎ落とす。希望は希望のまま、恐れは恐れのまま、虚偽は虚偽として可視化される。誰かの善意は崩れないが、同時に、誰かの欺瞞も隠れられなくなる。


 層の外で、変化が連鎖し始める。


 城壁に刻まれていた紋章が、単なる権威であることを晒す。

 祈りの場に積もっていた言葉が、願いと依存の境界を露わにする。

 戦場に並ぶ旗が、正義ではなく利害であることを示す。


 光は、何も壊さない。

 だが、逃げ場を消す。


 人々は、自らの位置を知るようになる。

 どこに立ち、何を守り、何を見捨ててきたのか。

 それは告発ではない。

 ただ、隠れられないという事実が、世界に均等に降り注ぐ。


 この光は、未来を約束しない。

 救済を保証しない。

 代わりに、選択の責任だけを、誰からも奪わない。


 均衡は、揺れる。

 かつて保たれていた沈黙が、耐え難い重みを帯びる。

 曖昧さの中で共存していた関係が、形を失う。

 だが、破綻は起こらない。

 崩れるのは、虚構だけだった。


 世界は、透明になる。


 透明であることは、優しさではない。

 見えなかった痛みが、見えるようになる。

 触れなかった責任が、触れられる距離へと近づく。

 それでも、光は誰かを選ばない。


 エルドは、導杖を胸に引き寄せる。

 そこには、かつて静火があった。

 今は、重さのない白が脈打っている。


 この火は、内奥から放たれている。

 外から与えられたものではない。

 影を抱え、拒まず、積み重ねてきた歩みそのものが、光へと変質した結果だった。


 過去は消えない。

 だが、歪まない。


 未来は見えない。

 だが、誤魔化せない。


 この世界では、英雄が生まれにくくなる。

 大義で覆うことができないからだ。

 代わりに、立ち続ける者が増える。

 理由を掲げるのではなく、位置を引き受ける者が。


 光は、導かない。

 だが、迷わせない。


 道は無数に存在する。

 そのすべてが、等しく露わになっている。

 選ぶことは、避けられない。

 選ばなかったという事実すら、選択として残る。


 世界は、厳しくなる。

 だが、虚しくならない。


 なぜなら、すべてが実在するからだ。

 意志も、躊躇も、沈黙も、同じ明度でそこに在る。


 外界で、均衡が再定義される。

 白でも黒でもない、新しい釣り合い。

 それは静止ではなく、継続のための不安定だった。


 光は、なおも広がる。

 しかし、膨張しない。

 内奥から生まれた明度は、他者を侵食しない。

 触れた場所でだけ、真実を浮かび上がらせる。


 世界は、逃げ場を失う。

 同時に、立つ場所を得る。


 その終端で、物語は閉じない。

 むしろ、語られなかったすべてが、ようやく始まりを持つ。


 初光は、なおも静かに在り続ける。

 闇を消さず、希望を飾らず、

 ただ、世界をそのままに映し続けながら。


























《アナザーエンド》

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ