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エルド奇譚:迷宮の祠と真名の石  作者: VIKASH
第七の試練

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「岸」―《境界停留 ― 渡らない選択の道》

◆「岸」ルート



 霧は、いつしか水面へと変わっていた。

 揺曖の環であったはずの層は、境界としての性質を強め、こちら側と向こう側を分かつ一枚の鏡のように広がっている。足もとにあるのは道ではなく、岸だった。踏み出せば渡れる。だが、踏み出さなくとも、ここは崩れない。



 水面には、無数の像が映っている。

 選ばれた未来、選ばれなかった未来、途中で途切れた判断、形になる前に失われた可能性。それらはすべて、向こう岸に存在しているようでいて、こちら側にも確かに属していた。反射ではない。どちらも実体であり、どちらも未完のまま、均衡の中に置かれている。



 岸の性質は、拒まないことだった。

 渡ることを強制せず、戻ることも否定しない。ただ、世界を「未決」の状態で保つ。選択が生じる前の張力そのものが、ここでは構造として固定されている。



 白衡の導杖は、ここで初めて進路を示さなかった。

 光は水面に溶け、境界と同化する。導くための道具であったはずのそれが、境を維持するための支点へと変質している。進むための力は、ここでは不要だった。必要なのは、留まることを選び続ける意志だった。



 岸に立つということは、世界の片側を選ばないことではない。

 両側を同時に抱え、どちらにも帰属しないという選択だった。渡らないという決断は、逃避ではない。未来を止める行為でもない。未来が確定してしまう“その瞬間”を、永遠に手前で受け止め続けるという、極めて能動的な在り方だった。



 水面は、時折揺れる。

 向こう側で何かが変わるたび、こちら側にも微細な波が届く。だが、その変化は境を越えない。ここでは、破滅も救済も、完全な形では成立しない。どちらも可能性のまま、半歩手前で静止する。



 岸に立つ存在は、世界の進行を拒んでいるのではない。

 ただ、進行を「絶対」にしないだけだ。選択が生まれる瞬間に、常に余白を残す。すべてが決まりきった物語になることを防ぎ、あらゆる未来が“まだ他であり得る”状態を保ち続ける。



 それは、英雄の役割ではない。

 王の権能でもない。

 むしろ、物語そのものが暴走しないための、沈黙した支点だった。



 やがて、水面の向こうで、幾つもの世界が動き出す。

 戦いが起こり、再生が訪れ、選別が行われ、終わりと始まりが交錯する。そのすべてが、岸の存在を知らぬまま進行する。だが、どの未来も、最後の一歩を踏み出す直前で、必ずここを通過する。



 岸は、通路ではない。

 終点でもない。

 選択が“選択であり続ける”ための、最後の緩衝帯だった。



 白衡の導杖は、水面に影だけを落とす。

 その影は、こちら側にも、向こう側にも属さない。境界そのものとして、静止している。



 世界は進む。

 だが、完全には決まらない。



 岸に立つ存在がある限り、

 未来は常に、まだ別であり得る。



 そしてこの道は、終わらない。

 渡らないという選択が、永遠に更新され続けるかぎり、

 物語は、閉じることを許されない。



◆ 「罪」ルート


《不作為の断罪》


 岸に留まり続けた均衡は、世界の側から“停滞の元凶”として告発される。災厄や衰退の原因が、決断を避け続けた存在に帰され、岸は救済者から罪人へと反転する。選ばなかったことが、最も重い選択だったと知らされる物語。



---



◆「鏡」ルート


《向こう岸の自己》


 霧の向こうから、かつて進んだ“もう一人の自分”が現れる。選んだ未来を生きる存在は、岸に留まった自分を否定も肯定もせず、ただ結果を示す。二つの自己が並び立ち、物語そのものが分岐の是非を問う対峙へと変わる。



---



◆「呼」ルート


《多世界の救援》


 無数の世界から同時に“助け”が届く。岸は観測点から救済点へ変質し、選ばない立場が限界を迎える。すべてを見渡す者は、ついに一つを選ばねばならなくなる。沈黙の守護者が、初めて動く王道転換の章。



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