表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルド奇譚:迷宮の祠と真名の石  作者: VIKASH
第七の試練

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

107/141

「石」―《不動の分岐 ― 記憶の基盤》

◆ 「石」ルート

《不動の分岐 ― 記憶の基盤》



 大樹の核に満ちていた光と影は、互いを拒むことなく、しかし溶け合うこともなく、ゆっくりと沈降を始めた。波立っていた層は静まり、揺らぎは重さへと変わっていく。流れは止まり、循環は層となる。まるで時間そのものが、ここで一度、深く腰を下ろしたかのようだった。



 選ばれなかった可能性は、消えなかった。燃えもしなかった。

 それらは圧縮され、折り重なり、世界の下層へと沈んでいく。



 それは墓標ではない。

 礎だった。



 王家が歩んできた誤り、躊躇、敗北、未完の願い。あらゆる「別の道」が、ひとつの巨大な地層として形成されていく。軽やかな修正も、瞬時の跳躍も、ここでは選ばれない。未来は、積み上げられた過去の上にのみ築かれる。



 核の中心に、新しい構造が生まれる。

 円ではなく、柱。

 動ではなく、質量。



 それは世界の“重心”だった。



 以後、王家の決断は、すべてこの基盤を通過する。選択は早くならない。むしろ遅くなる。だが、その遅さは迷いではなく、測量だった。踏み出す前に、足元の深さを知るための沈黙。



 変革は起こらない。

 だが、崩壊も起こらない。



 戦は避けられないときにのみ起こり、災厄は予兆の段階で圧縮される。世界は派手に生まれ変わらないが、決して壊れない。人々は、奇跡を目撃しない代わりに、長い時間を生きる。



 英雄は現れない。

 代わりに、記録が残る。



 すべての失敗は、地層として刻まれる。次の時代は、それを掘り起こし、読み取り、同じ誤りを踏まない。王家は導く存在ではなく、支える存在となる。前に立つのではなく、背後で世界を受け止める役割へと変わる。



 核の深層で、過去が重なり合い、ひとつの“沈黙の書庫”が形成される。そこには声も光もない。ただ、重みだけがある。選ばれなかった無数の未来が、否定されることなく、可能性として眠り続ける。



 誰かが急ぎたいとき、この世界は遅いと感じられる。

 誰かが飛びたいとき、この世界は重いと感じられる。



 それでも、立ち止まる場所は常に在る。



 嵐が来ても、地は崩れない。

 王が変わっても、礎は変わらない。

 文明が移ろっても、基盤は残る。



 世界は進まない。

 しかし、倒れない。



 それが、この選択の意味だった。



 未来は遠くなる。だが、消えない。

 希望は派手に輝かない。だが、折れない。



 大樹は、静かに根を深める。

 葉は高く伸びず、幹は太くなる。

 風景は変わらないが、土壌は確実に厚みを増していく。



 石の継承とは、夢を語る力ではない。

 夢が崩れたあとも、世界を支え続ける力だった。



 誰もこの選択を讃えない。

 だが、誰もこの世界を失わない。



 物語は静かに終わる。

 そして、同じ静けさの中で、長い時代が続いていく。


























《アナザーエンド》

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ