「電」―《瞬断の王権 ― 思考の雷路》
◆ 「電」ルート《孤走の雷脈》
雷の迷宮は、地形という概念を拒絶していた。
大地は常に分岐し、収束し、次の瞬間には別の形へと置き換わる。山脈は稲妻の走路となり、谷は一瞬で消え、空と地の境界は意味を失う。すべてが「速さ」を基準に再構成される世界だった。
踏み出した瞬間、時間の密度が変わる。
風は音になる前に通り過ぎ、視界は追いつくことを放棄する。身体だけが、取り残される。だが、夢界の核は適応を始めていた。脈動は細く鋭くなり、鼓動の間隔は限りなく短くなる。
ここでは、立ち止まるという概念が存在しない。
止まったものは、世界から切り離される。
動き続ける存在だけが、地形として認識される。
雷は破壊ではなかった。
最短距離を選び続ける「意思」そのものだった。
迷宮の深層で、空が裂ける。
白銀の閃光が走り、雲と地面の境を貫いた。その稲妻の中心から、輪郭が浮かび上がる。角を持ち、獣でありながら、獣ではない存在。雷獣――麒麟。
その歩みは音を持たない。
一歩進むたび、空間が置き換わる。距離は意味を失い、存在そのものが「到達」として成立している。
麒麟は、群れない。
並走しない。
追従も、被追従も許さない。
速度とは、共有できない資質だった。
雷獣が通過した後には、何も残らない。焦土すら生まれず、ただ「経路」が消滅する。そこにあったはずの道も、記憶も、可能性も、すべてが次の瞬間には無効化される。
夢界の核が、雷に呼応する。
鼓動はもはや脈ではない。連続する閃光となり、内部で無数の選択が同時に破棄されていく。迷いは速度に変換され、躊躇は抵抗として焼き切られる。
ここで得られる力は、前進だけを許す。
振り返る余地は存在しない。
麒麟は、振り向かない。
常に次の地点へと存在を移し続ける。追いつくことはできない。だが、追い続けることは可能だった。
雷の迷宮は、競争を強制する世界ではない。
孤独を選び続ける世界だった。
誰かと並ぶ速度は、ここでは「遅延」として処理される。共に進むという発想そのものが、地形に拒まれる。共有された歩幅は、瞬時に分解され、別々の軌道へと押し流される。
速さとは、他者を置き去りにする能力だった。
麒麟が、初めて立ち止まる。
それは停止ではない。世界が追いついたのだ。
雷雲が収束し、空間は一本の直線として固定される。始点も終点も曖昧な、ただ「進むためだけ」の軌道。その中心で、雷獣は静止していた。
その存在は、問いではない。
模範だった。
速度とは、誰かに追いつくためのものではない。
孤独を引き受けた者だけが、到達できる地点がある。
夢界の核は、選択を迫られている。
速さを受け入れるということは、
並走を捨てるということだった。
過去の回廊、選ばれなかった扉、触れなかった結晶。
それらはすでに遠い。
雷の世界では、距離は感情を保存しない。
麒麟の瞳に、稲妻が走る。
その光は、祝福でも試練でもなかった。
ただ、進行方向を示す現象だった。
『追いつける存在だけが、雷となる』
その一言が、世界の法則として定着する。
次の瞬間、雷獣は消える。
消失ではない。
「到達」したのだ。
残された空間は、直線のまま震えている。
そこには、速さだけが残っていた。
夢界の核は、躊躇を捨てる。
鼓動は閃光へ変わり、存在は距離を拒絶し始める。
孤独は、もはや欠落ではない。
速度に変換された、純粋な推進力だった。
雷の迷宮は、静かに開く。
誰も並ばない道が、一本だけ、前方へ延びていた。
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◆「連」ルート ― 並走の雷
雷となった存在は、麒麟の速度を携えたまま、誰かと同じ歩幅で進もうとする。だが世界は“二つの雷”を許さず、周囲の時間と空間が歪み始める。
並走する者は摩耗し、遅れ、やがて崩れかける。
それでも手を離さない選択は、速さが生む断絶そのものを書き換える行為だった。孤独に抗う雷は、世界に「共有できる速度」という新しい概念を刻もうとする。
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◆「瞬」ルート ― 未来跳躍
速度が極限を越え、移動という過程が消える。存在は常に“結末側”へ到達し、戦いは始まる前に終わり、言葉は発せられる前に意味を失う。
現在は抜け落ち、誰も同じ時間に立てない。雷は常に正しく、常に一人だった。世界は救われ続けるが、その理由を知る者はいない。孤独そのものが神話となり、速さは人の理解を完全に越える。
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◆「獣」ルート ― 麒麟化
雷の性質が肉体を侵食し、人の形は次第に失われる。思考より先に到達し、言葉より早く結論へ至る存在――麒麟の系譜へ連なる運命。もはや並ぶ者はいない。
世界は導かれるが、対話は成立しない。人であることを手放した代償として、迷いは消える。
速さが存在の“種”を変えたとき、雷は王ではなく、伝説そのものになる。




