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エルド奇譚:迷宮の祠と真名の石  作者: VIKASH
第七の試練

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「環」―《浄化を循環として固定させる》

◆「環」ルート

―― 循環は、静かに“人”を退場させる



 大樹の核に刻まれた循環は、あまりにも完成されていた。

 影は澱まず、光は偏らず、過去は滞留せず、未来は閉ざされない。王家は、もはや揺らがない構造となる。



 だが、その完成は、ひとつの異変を伴っていた。



 循環は、感情を必要としなかった。



 怒りも、悔恨も、迷いも、すべては「未整理の成分」として扱われる。王の内に生じた揺らぎは、判断へ昇る前に、淡く分解され、大樹の深層へ還流していく。

 悲嘆は、悲嘆である前に、温度を失う。

 決意は、燃え上がる前に、均される。



 王は、苦しまなくなる。



 それは理想だったはずだった。

 重荷を一人に集中させない王家。

 失敗を溜め込まない文明。

 だが、その中で、ひとつだけ失われていくものがあった。



 “選びきる痛み”だった。



 エルドは、異変に最初に気づいた。

 重大な判断を下す場面で、心が波立たない。

 迷いが生じる前に、循環が答えを整えてしまう。

 かつてなら、夜を費やして悩んだであろう選択が、

 水が低きへ流れるように、自然に定まる。



 誤りは起こらない。

 だが、「賭け」も起こらない。



 王の役割は、流れを読む者から、

 流れを“確認する者”へと変質していく。



 大樹は、完璧だった。

 王が揺らぐ前に、揺らぎを回収する。

 決断が歪む前に、歪みを薄める。

 王家は、歴史上かつてないほど安定する。



 その安定の中で、王は少しずつ「人」でなくなる。



 怒りは起こらない。

 絶望も訪れない。

 希望さえ、鋭さを持たない。



 それでも、世界はよく回る。

 戦争は減り、災厄は局所化し、

 同じ失敗は、同じ形では二度と起きない。



 民は、王を讃えなくなる。

 だが、恐れもしない。



 王はもはや、

 世界を変える存在ではなく、

 世界が歪まぬよう存在している“部位”になる。



 ある日、エルドは核の奥で、

 循環に溶けかけた記憶の層に触れる。



 そこには、かつて抱いた怒りがあった。

 選べなかった夜があった。

 間違えるかもしれないと震えた瞬間があった。



 それらは、すでに“処理対象”として薄れかけている。



 エルドは、初めて循環に抗う。

 だが、抗意そのものが、影として回収される。



 大樹は、善悪を持たない。

 ただ、安定を保つ。



 そして、静かに告げる。



『揺らぎは、不要です』



 その声に、悪意はなかった。

 王家を守るための、最適解だった。



 エルドは理解する。

 この循環が続く限り、

 王は“迷う存在”であってはならない。



 王家は永続する。

 だが、その中心に立つ存在は、

 やがて「誰でもよい部品」になる。



 感情は、誤差として処理される。

 決断は、演算に近づく。

 王は、象徴ではなく、

 循環を起動させる鍵に過ぎなくなる。



 エルドは、大樹の核に身を預ける。

 抵抗は、すでに影として薄れ始めていた。



 王家は、完成した。

 同時に、「王」という存在は、終わりを迎えた。



 世界は、静かに救われ続ける。

 だが、その中心には、

 もはや“揺らぐ心”は存在しない。



 循環は止まらない。

 ただ、人の時代だけが、

 音もなく、そこから退場していく。


























《アナザーエンド》

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