結は何処へ(仮)
作品名の結はここでは"おわり"と読むとする。
私はとても人に弱い。
私の人生は至極平和なものだった。骨が折れたり車に轢かれたりそんな特別大きな怪我や事故にも遭わず、義務教育も終えて年相応の社会経験も積んでいる。
そんな変わり映えのない教育に何かを見出して教職の道を志し、時々気乗りのしない日はあれども学を蓄えているそんな人生であった。喧嘩はあれども特段大きい揉め事もなく人との不和も問題なくそこそこ平和に暮らしてきた。ある程度の社交性を身に付けその上慣れていると自負していたほどに。
これまでの人生を起承転結で表したのならば承すら始まっていないと言えるほどに私の人生は平らであったのだ。
もう一度言うが、私はとても人に弱かった。
だから今も、親友の殺した死体を一緒に埋めている真っ最中なのだ。
私の人生に突如転が訪れたのだ。私の意思と人生に配慮も無しに。
私の住んでいる地域はあまり外のものが訪れるような場所というわけではなく、通う学舎にも電車で数刻は揺られないといけない程である。
それでも現在の位置はとても奥の方で、灯りも標識も整ったガードレールもあった道からは外れた暗い山の端であった。
ただただ昔馴染みにいつもと同じように遊びに誘われたと思って電話越しにほぼ反射的に頷いたのだ。相変わらずチェーンの少ない店並みに足を運んで、結局行きつけの居酒屋で教授の物真似をするのだと思っていたのだ。疑問であったのは夜も更けそうな時刻であったことだけだ。
携帯の2コール目でいつものように画面に耳をあてて分かりきった呼出の理由を聞いた。聞き終わる前から首肯するつもりで一言分の吸も済んでいた、だから。
「死体を埋めるから手伝ってくれないか?」
なんて聞き慣れない言葉に疑問を呈す前に誘いの承諾は終えてしまっていて、私の言葉を聞くと"車を出すから迎えに行く"との一言でいつものように電話が早く閉じられたその後に、やっと私の思考は追いついたのだ。
今親友はなんと言っていた、定型文と化した会話に飽きて趣向を変えた故のジョークだったのかもしれない、彼にしては珍しい冗談を私は一瞬真に受けてしまったのだから親友はドッキリに向いている、そんなことを特に持っていくものもない荷物を纏め迎えを待っているときに考えていた。
家の近い親友には稀なぐらい今日は来るのが遅かった、別に遅いことに苦言を呈しているわけではなく実際そうなのだ。だからさっきの冗談のことを沢山考える猶予があったのだ。
もしかするとその時間は親友が私に与えてくれた敢えての時間だったのかもしれないし、そうでなく家でない所から向かってきていたからなのかもしれないが、もうそれは分からない。
自家用車でやってきた彼は車を私の家に止めるや否や直ぐに私を助手席に促して、車をまた直ぐに走らせた。迎えがあるときは言われずとも助手席に乗っているというのに放たれたその言葉になにか含まれた意図があるのか、何処か平静でないのかとも思えたが、それもまた分からない。
私は相も変わらず学舎でのエピソードでも話そうかと前座に迎えの礼とさっきの冗談は珍しくて面白かったと伝えたのだが、いかんせん親友の反応が悪い。
うんともすんとも言わない訳ではないがほぼうんとすん程の言葉しか返って来ず、本題のエピソードを話して飲みの前に一度盛り上げてやろうという趣向の気も失せてしまったから、運転に集中してるものだと仮定して窓越しの景色に目をやったのだ。
そしたらやっと鈍い私は外の風景が見慣れていないことに気が付く。見飽きたタバコ屋もトンネルの名も全く視界に入らないし進む先はだんだん廃れて標識も草臥れていってるのだ、今日は妙なことが立て続けに起こる。
私は親友に今日はどこに飲みに行くつもりなんだと問うと今日は飲みじゃないと淡々と返されたものだから、じゃあ何をするんだと問い質してみる。
『さっき伝えて君は頷いたじゃないか、電話で。』
親友はまた淡々と私にそう答えたのだ。運転席から見える道なりに正しく車を走らせながら。
そんなあっけらかんと答えられたものだから私は平静なフリを親友と同様にこなせてしまった。まるでその行為を受け入れているかと自分で思ってしまうほど自然に。
それから親友が車を止めて後部座席の扉を開けるまで私が言葉を発することはぐんと減った。二言ほどは喋ったがその中身もまるで落ち着いているなと見せる為に放った言葉で特に意味のなかった事であったから、もう記憶には残っていない。
助手席側の後部座席には至極当然のように死体が座っていた。親友の律儀さが垣間見えるかのようにちゃっかりシートベルトを着けられながら、それはもうまるで座っていたのだ。
親友がロックを外すと箍が外れたみたいにそれは雪崩れ落ちて身体の一部が変に曲がっていた、そんな人間だったものを初めて目にした筈の私はされど驚きはせずこれまた平気だとガワを被る。親友は流石に配慮したのか私には後部座席に置いていた荷物を死体を跨いで手渡してきた。
埋める為の最低限を急いでかき集めたのか荷物は多くもなく重すぎることもない、軍手とマスクと親友の貴重品の入ったコンビニ袋とシャベル、そして何故だか度数の高い未開封大容量の酒。
親友は変に歪むそれの両脇を抱えて持ち上げて、下半身を引き摺らせたまま道路の脇に逸れて山の中へ入っていく。私もその後について歩く。
親友が進めば進むほどそれの下部の履いていた衣服と靴は脱げていくが親友は目もくれず暗闇を突き進む。私も私で拾う手が余っていなかったからと放置して同じく後をついて歩いた。
下着も尻部が擦られているからすぐ剥がれると思ったが、それの恥部はそれなりに引っ掛かりを持つ程の大きさがあるらしく晒されることはなかった。
異性よりかは見るに堪えなくはないが同じ恥部を所有している身としておっぴろげであったらそれはそれで同情が生まれていたかもしれない。こればかりには引っ掛かりに畏敬を覚え、礼の代わりにそこに目を向けることを止めた。
『ここを掘ろう。』
そう言えば親友はそれを雑に放り投げ、私のもつビニール袋から二組の軍手を取り出し一組私に差し出してきたので礼を伝えて受け取る。
土を覆う枯葉を捌けてから親友はシャベルでそれの入る程度を浅く掘って両端から掘っていこうとなんとも手際のいい動きをしてみせえ、これまた流石に配慮しているのか私にシャベルを渡して自分は手で穴を掘り始めた。
私は親友のこのようなちょっとした気遣いが彼の隣の居心地を良いと思わせてくれるから好きだった。長年関わってきた日々の中にそれが垣間見えて私も同じように親友に配慮をして礼を贈り合うことが私たちの間での恒例だったが、まさか異様な空気を構え異常な心持ちであるだろうにいつもの配慮がここでも発揮されるのだなと、こんなイレギュラーな目に遭わされているはずなのに私は感銘を受けてしまった。
このような状況でも親友の配慮に気付いてしまったのだからパブロフのペットのように私もなにか恩返しをしよう、そう思って今出来そうなことを考えたが犬らしく立派な穴を掘ることしか思い付かない。ここで正気に戻っては親友がしてくれた配慮が全て水の泡になってしまう、それは可哀想だ。
私のこの気遣いは配慮なのか優しさなのかと聞かれたら答えを出すことは難しかった。何故なら私は人生初めての異常事態と対面しているからである。
私の頭の中で考えていたことは既に泡でもう消えてしまうのだ。この一連全てに疑問を持っても親友に配慮して私の頭はすぐ荒波を立てて泡を作って私自身への気遣いは後回しにする。
改めて言おう、私は人に特段弱いのだ。
弱い私は立ち尽くしているのは穴を掘る上で効率が悪いからと親友と反対で向かい合いながらシャベルを土に刺し始めるのだ。
処女作です。
作品設定間違




