到着
汽車へ乗ると、列車は田んぼの前を通り過ぎて山が連なっている場所を走っていた。グロース帝国では農業が盛んだが、これから行くテドラ王国では、鉱山の採掘が主産業だ。魔石を掘り当てて資産家になる者も多く、一攫千金を夢見て他国から移住してくる人も少なくはなかった。
最近は採掘できる場所も少なくなって、掘れる箇所が少なくなったと聞いている。一年前に大規模な崩落事故があって、それからは採掘場や採掘者が限定されるようになった。
鉱山以外に農業や漁業、その他の事業拡大も国の政策によって推し進めてはいるようだが、経済効果はいま一つだと授業の後に先生が言っていた。
「あれ?」
「トンネルだな」
列車の中が急に暗くなって顔を上げると、ジルの近くにある窓からは黒い壁が続いているのが見えた。時おり見える小さな灯りが、壁面の一部を浮かび上がらせている。
「すごい!」
「なんだ……。川か?」
トンネルを抜けると、目の前に大きな城と、それを取り囲むようにして流れている大きな川があった。湖に浮かぶように建っている城は、どうやら列車の線路の執着地点のようである。列車は山のふもとをなぞるように走り続け、橋を渡ると学園の建物に横付けする形で停車した。
列車から降りると、場所が分からなくて、とりあえず魔術学園の新入生と思われる人達と一緒に、白いレンガ造りの上に立っていた。
列車が白い煙を出し、汽笛を鳴らしながら学園を去っていくと、廊下の先の扉から、黒いローブを着た頭が薄くなった初老の男性と、城のローブを着た長い髭の白髪の老人が出てきた。
「遅い! 君たちは何をしていたのだね? 早く、2列に並びたまえっ」
「トリウス――焦るでない。新入生が怯えているではないか。君のせっかちな性格は、なかなか直らないね」
「校長、時間がありません。お小言は後にしてください」
私は時間がないと聞いて慌てて列に並んだ。ジルも私に付き従うように隣に並んでいる。
「新入生諸君、入学おめでとう。私は教頭のトリウス・メシャンだ。入学式開始の時間が迫っている。あと5分後には式が始まるから、かならず私の後についてくるように」
「……はい」
初対面の教頭の剣幕に慄きながらも、私たちは急いで歩く教頭の後をついて行った。せかせかした歩き方が気になって、道を覚えられなかったので、後でジルに聞いてみようと思った。
トリウス先生の後について行くと、アンティークな調度品が置かれた廊下を通り過ぎた後、何度も廊下の角を曲がって大きな扉の前に辿り着いた。




